■画期的だった操作マニュアルについて


▼操作マニュアルの一番の成功例

操作マニュアルの中で一番の成功例は、海老沢泰久の書いた「これならわかるパソコンが動く」だろうと思います。この操作マニュアルは、NECのパソコン「98シリーズ」に添付されました。すごくわかりやすいと評判になって、冊子が本として出版されました。

海老沢泰久は、直木賞をとった小説家です。亡くなるまでパソコンで文章を書いたことがない人です。なぜ、この人がパソコンの操作マニュアルを書くようになったのか、ちょっといわくがあります。

 

▼小説家がマニュアルを書いた理由

週刊朝日の編集長だった川村二郎さんが、ファクシミリを購入したのに、設定できなかったそうです。マニュアルの文章が理解不能だったとのこと。誰が、いいマニュアルを作れるだろうかと考えたら、一番文章の上手な海老沢泰久を思い出したというのです。

ちょうどNECも困っていました。ウィンドウズ95が出た当時、パソコンは40万円もしましたから、高価な買い物です。それなのに、4割の方がウィンドウズ95のセットアップ完了までたどり着けなかったそうです。これは大変なことです。

コールセンターには、電話がパンクしてしまうほど問い合わせが殺到していました。何とかしないとまずいという状況のとき、川村さんのお話があって、NECは、海老沢さんに操作マニュアルを作ってもらうということになったそうです。

 

▼内容はワープロ・メール・Web

この操作マニュアルでは、セットアップまでの手順が、7ページで説明されています。図は最小限に絞られていて、文章はわかりやすく書かれています。この説明で、ほとんどの方が、セットアップできたのです。コールセンターへの問い合わせは激減しました。

セットアップのあとの内容は、ワープロ、メール、パソコン通信(Web)に絞られていました。分量は、数十ページです。この本で、パソコンの使い方がわかったという人が多かっただろうと思います。2012年まで、図書館の棚に置かれていました。

縦書きのマニュアルですし、今では内容が古くなっています。文章も変えないといけないところがあります。しかし、パソコンの操作マニュアルの基本構造は、現在でもあまり変わらないのだろうと思います。画期的な操作マニュアルでした。

 

▼2つの成功要因

なぜこれほどまで成功したのでしょうか。第1に、文章がわかりやすかったということです。文章が適切だと、図は最小限ですみます。安易に画面の図が並べてある操作マニュアルは、たいてい文章に問題があります。

第2に、盛り込む情報を絞ったということです。必要な機能のみを説明して、これだけ出来たらユーザーも満足してくれるというものに絞りました。メーカー側が、標準となる使い方を示したのです。

これら2点は現在でも、操作マニュアルを作るときの基本です。

 

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