▼操作マニュアルと業務マニュアルの違い
操作マニュアルと業務マニュアルは、どう違うのでしょうか。作るのが難しいのは、どちらでしょうか。両方の作成に携わったことがある人なら、業務マニュアルの方が圧倒的に難しいと感じるはずです。
操作マニュアルの難しさは、おもに見せ方の難しさでしょう。業務マニュアルの場合、どういう内容にするのか、根本的なところで困難に陥ります。両者の違いはどうして起こるのでしょうか。
▼正解がある操作手順
操作マニュアルと業務マニュアルの一番の違いは、正解のあるなしにあります。
操作マニュアルの場合、正解があるのです。こう操作すれば、こうなります…という正解があります。したがって、操作の仕方をわかりやすく説明することが大切になります。見せ方が難しいというのは、わかるように説明するのが難しいという意味です。
たくさんの機能があります。それらをすべて並列的に見せていたら、大切なところが見つかりにくくなります。検索だけでは解決しません。中核となる標準的な使い方を提示する必要があります。
標準を提示するからこそ、最低限の共通基盤が出来ます。まれにしか使わない操作は、別立てで記述すれば、かえって見つけやすくなります。
▼正解がない業務行為
業務マニュアルの場合、正解がありません。どういう業務が正解ですという基準があるなら簡単です。ルーティン化した業務なら、正解かどうかわからないけれども、これを標準にするとは言えます。
しかし、主要な業務がルーティン化した業務であっては困るはずです。付加価値を生む業務は、単純作業ではありません。担当者が頭を働かせて考えないと、うまく行かない業務こそ大切です。それを標準化することは難しいでしょう。
▼業務マニュアルを作る目的
かつての業務マニュアルは、標準化を中心としていました。これはテーラー・システムの影響によるものでしょう。テーラー・システムが広がったのは、生産工程の大枠が、あまり急速に変化しなかった、という時代背景もあったことでしょう。
いまや、どこから競争相手が出てくるのか、わかりにくくなりました。自社の部門がいつまでも自社の内部にとどまる、と言い切れる人がいなくなりました。だからこそ、自社の業務がどうなっているのか、全体を把握することが大切になります。
18世紀の後半、産業革命が進行する中で、分業化が進みました。かつての時計職人は構成する部品をすべて知っていましたが、分業化により、全体を見渡せる人が少数になってしまいました。
そのことについて、P.M.シュルは『機械と哲学』の中で、「発展の端緒の目撃者であったアダム・スミスは、それが労働機能を低下させる性格のものであることを見抜いていた」と書いています。
業務マニュアルを作る目的は、正解のない業務を、つねに見えるようにしておくためです。業務を行うプロなら、業務のプロセスが見えていれば、適切な業務の変更・構築ができるはずです。少なくとも、その必要性に早く気がつくはずです。