▼学校文法の基礎となった規範文法
英文法の基礎を作ったのは、ラウスとマリーの英文法であるというのは、もはや通説のようです。両者の文法が基礎となって、いわゆる学校文法ができあがっています。学校で教える文法ですから、おおぜいが学び、大きな影響を与えています。
学校文法や、その基礎となったラウスやマリーの英文法は、規範文法と呼ばれるものです。規範文法が標準となって、多くの文法書が出版されています。ところが、20世紀後半になって、規範文法はすたれています。なぜなのでしょうか。
渡部昇一の『英文法を知っていますか』を参考に、こうした経緯を探ってみたいと思います。
▼規範文法の優位性
まず、ラウスとマリーの文法がどう受け入れられたのか、見てみましょう。
1762年にラウスは英文法を書き、これがイギリス国民に広く受け入れられ、一世を風靡することになったそうです。そのときイギリス国民が求めていたものは、とても当たり前のもののように思えます。
当時のイギリス人は、英語をどう書いたらよいのか、その基準となるルールが欲しかったというのです。安心して使えるルールがあったら、文章を書くときに役に立つと考えたのです。当然だろうと思います。
ラウスという人は、一流の学者で社会的にも地位の高い人だったため、安心して頼れる権威にもなったようです。ラウス自身、文法的に正確な文章を書くべきであって、そのためにきちんと文法を学ぶべきだと主張しています。
マリーは、1795年に英文法を書いています。このときの立場は、理屈と慣習を融合させるというものでした。法律家だったマリーは、ルールを重視するとともに、慣習を取り入れたため、多くの人が納得できる文法を作ることができました。
この文法を理解すれば、文法的誤りが指摘できるような自信がもてたということです。どうやら、このあたりが規範文法が求められ、そのあとすたれた原因かもしれません。
多くの人にとって、自分が文章を書くときに、どう書くのが好ましいか、知りたかったはずです。そのとき、こう書けばよいというルールがあったら便利です。ルールにそって書くと、よい文章になるなら、ルールを覚えようとします。
そのとき、きちんとした文章が書けたら、いい仕事に就ける可能性が高くなるとしたら、文法を勉強しようという気になります。
▼規範文法の弊害と今後
ところが文法を学ぶことによって、ルールに反する文章はダメだ…という主張が強くなる弊害が生まれたようです。『英文法を知っていますか』には、マリーの文法を学んだ効果について、こうあります(この二巻とは、マリーの英文法のことです)。
この二巻をよく読めば学校の文法教師としては十分であり、それこそ欽定訳の聖書であろうと、ミルトンであろうと、その英語の文法的誤りを指摘できるような自信がわいたとしても不思議ではない。
これは行きすぎですね。ある基準をもとに、ルール違反だからおかしいという指摘は、そのルールが絶対のときにしか適応されません。言葉の場合、慣習の要素が入りますから、無理があります。
自分の信じるルールを振りかざして、それに反する文を間違っていると指摘するのは、ナンセンスなことです。こうした使われ方をするならば、文法は役に立ちません。規範文法がすたれた原因は、この辺にあるように思います。
では、今後はどうでしょうか。文書を書くビジネス人にお話をお聞きすると、文章を読み書きするときのルールが欲しい、とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。規範文法が必要とされるのではないか、と私は思っています。
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