▼経験の二重構造論
ビジネス文書は、ほとんどの場合、使えるか使えないかによって評価されます。ビジネスは行動を伴います。行動につながらない文書は、例外的な存在です。行動につながる文書の中核となるのが、現実解を示す文書です。何をどうすべきかを示す文書です。
行動に直接つながる文書は、検証可能な形式で書かれる必要があります。この点、ウィリアム・ジェームズの経験についての見解は、興味深いものです。経験を二重構造と見ています。経験の第一の表層だけでは、次の行動につながらないという考えです。
少し具体的な話に変えて考えてみましょう。自社の製品について、なぜ計画通り売れないのか、どうしたら売れるようになるのか、どういう製品にしたら良いのかを考えるところまでが、第一段階の経験です。一見すると、これだけで十分なようにも見えます。
しかし、さらに第二段階まで進める必要があります。この段階では、良い製品にするために、具体的にどういう方法があるのかまで考える必要があります。経験の二重構造論は、中核的なビジネス文書の記述形式に、そのまま当てはまります。
検証可能な形式の説明として、ぴったりの言葉があります。「何をやればいいのかは分かっていたが、それをどうやって実現するかに戸惑いがあった」。これは2013年、三菱航空機の小型ジェット旅客機「MRJ」の開発計画延期の際の、川井社長の言葉です。
検証可能な形式とは、「どうやって実現するか」まで書く形式だということです。
▼検証可能かどうか
ビジネス文書の場合、検証可能な形式で書かれた段階でひとまず完成になります。ところが、問題発見とその対策を記述しただけで、文書を完結したものとみなしている例が、ときどき見られます。これでは不十分です。使えない文書とみなされてしまいます。
逆に、たとえ小さな問題であっても、具体的にどうやって実現するのか、その方法まで書かれていたら、使える文書と扱われる可能性が十分あります。ビジネス文書を書くとき、私たちは検証可能な形式で書かれているかどうか、もう一度確認すべきだと思います。
もちろん検証可能な形式で書かれているからといって、それが正しいとの保障はありません。検証可能な形式で記述することの価値は、正しさが確認できるという点にあります。正しさを確認できる記述形式こそ、ビジネス文書の記述形式の王道だというべきです。
当然のことですが、すべてのビジネス文書を、検証可能な形式で書くことはできません。その必要もありません。大切なことは、自分の書いている文書が、検証可能な形式になっているのか、あるいはその前段階にとどまっているのかを意識して記述することです。
▼一番よい部分を際立たせる工夫
ビジネスは、行動を伴うことで成立します。そのとき選択が求められます。行動には、優先順位をつける必要があるのです。ビジネス文書は、そのために使えなくてはなりません。ここで、前提となる「データ」と「情報」と「知識」について触れておきます。
たとえば、一週間の曜日・時間ごとの来客数なら「データ」です。何曜日の何時から何時までが空く…なら「情報」になります。妥当な「情報」となるには、妥当な判断基準が必要です。判断基準が妥当な「情報」なら、使えます。
来客の少ない原因の仮説を立てて、その対策を示したなら「知識」になります。検証可能な形式で書かれた「知識」なら、使えます。ただ、「このボタンを押すとコーヒーが出ます」といった単一の知識ではビジネス文書として不十分です。
一方、ビジネスは組織で行いますから、よい問題提起であるなら、具体策がなくても意味があります。問題に対する意識が高まって、他の誰かが現実解を提示してくれるかもしれません。そのため、よい問題提起なら、それ自体、非常に価値のあるものになります。
ビジネス文書は、評論文ではありませんから、報告書を書く場合でも、行動につながる何かを発見しようとする意識が必要です。事実を記述することは、必要不可欠です。しかし、それだけでは行動するのに不十分だということになります。
ビジネス文書を書くとき注意すべきことは、自分の文書で一番のポイントを意識することです。自分の文書の中の一番よい部分を際立たせる工夫が必要です。検証可能であるのか、別の観点から使える要素を持っているのか、意識することが大切です。
(3 「自説中心の論理」)につづく。