■業務マニュアルとテンプレート(雛形)について

1 使えない業務マニュアル

数年前、IT企業の基幹業務マニュアルに関わるお仕事をしたことがあります。伸び盛りで、業績もすばらしい上場企業でした。ご相談は、業務マニュアルを作ったのに、使えなくて困っているということでした。

若い会社ですから、自社に業務マニュアルを作れる人がいませんでした。それで、業務マニュアルのコンサルティングを世界的な企業にお願いしたようです。たしかに形式的には、業務マニュアルになっています。しかし、これでは使えるはずありません。

まず、どこがおかしいのか指摘して欲しいということでした。つぎつぎ指摘することは可能でした。しかし、問題は、個別具体的な不備を修正したところで、きちんとした業務マニュアルにならない、ということでした。

なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか。作り方がおかしいからなのです。結論から先に言いましょう。テンプレート(雛形)に業務を流し込む形式で、業務マニュアルを作ったから、使えないのです。その痕跡があちこち残っていました。

 

2 テンプレートを利用した業務マニュアルの作成

私が見せていただいたのは、基幹業務マニュアルが出来てから半年以上たってからのことです。その間、なぜ使えないのか、わからなくて困っていました。一通り個別的な不備をご指摘してから、担当の方に、どういう形式で作ったのかお聞きしました。

コンサル会社からお二人の担当者がいらして、部門ごとに、業務の内容を聞きとって、それを記録していったとのこと。あとはお任せして、開始から4ヶ月で完成したそうです。マニュアルに詳細な規定があるわけではありませんが、それでも、なかなかの早業です。

業務の状況を聞いて、類似の業務形態のテンプレートを選択し、それを調整して業務の骨格を作ったのでしょう。そこに聞き取った業務の内容を入れ込んでいったようです。業務との齟齬があるため、項目があるだけで実質的な記述のないところもありました。

部門ごとに聞きとりが行われたためでしょう、同じ業務を別の言い方であらわしているところが、そのまま残っています。キーワードの統一というのは基礎的な作業ですが、聞き取った内容のままで統一する意識が感じられません。文書作成の経験が浅いのでしょう。

以上は業務マニュアル作成の未経験者がやりがちな、テンプレートに流し込んで作る方法です。その後偶然、この巨大コンサルティング会社にたくさんのテンプレートがあることを知りました。コンサルのあと、テンプレートを保存しているそうです。

 

3 業務フロー作りから始まる業務マニュアル作成

まず業務フローを作り、そこから業務マニュアルを作っていくのは、当然の流れです。業務がどうなっているのか、見えるようにするための第一歩が、業務フロー作りです。それを見たら、あれこれ業務を直したくなるはずです。

業務マニュアルができていないということは、業務の状況を十分に把握できていない状態です。その段階では、重複したり非効率な業務のある可能性が高いはずです。業務の状況が見えるようになったら、もっとよい仕組みに変えたくなるはずです。

業務フローが現状追認だけに終わるのは、もったいないことです。業務フローの作成には、会社側担当者もかなりかかわった様子でした。担当者も、業務フローは使えますとおっしゃっていました。しかし、それ以上のことは何もおっしゃいません。

じっと業務フローを見ていると、どうみても流れの悪い手順がありますし、一部が重複している業務がありそうに思いました。その点を確認すると、片方の業務は、今は行っていませんとのことでした。フローも部門ごとに修正して使っているとのことです。

重複した業務を示すらしい4つの用語について、その用語の使われ方を列記して、同じ意味ではないのかと確認しました。すぐにはわからず、3日後に、同じものです、とのお返事をいただきました。

業務マニュアルの作り方をある程度知らないと、先に進みません。当事者が、試行錯誤してみる必要があります。2年前まで、早業で業務マニュアルを作ろうとする人の中には、どうやったらテンプレートを入手できますか…と質問する人もいました。

最近、業務マニュアル作成講座での質問が、変化してきています。きちんとした業務マニュアルを作ろうとする人に、テンプレートが必要だという発想はなくなったようです。どう作ったらよいのか、どう解決したらよいのか、そんな質問に変わってきました。

単純な作業は別にして、きちんとした業務マニュアルを作ろうとしたら、テンプレートに頼ってはいけない…ということが認識されてきたように思います。

 

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