1 自分の読解力の確認:センター試験の活用
文章を読むとき、そこには自分と本の著者がいるだけです。進み方も、読む側のペースで決まります。ところが、現代文の試験を受ける場合、問題文が切り取られ、問題作成者による設問があり、それを制限時間の中で解答しなくてはなりません。
おそらくこうした試験を受けるのは、せいぜい就職試験までで、その後、問題演習をすることはなくなるはずです。ほとんどの方が、仕事を始めると、かかわりがなくなります。その後は仕事の中で、読むことが必要となりますから、それで十分なはずです。
ただ、ときどき心配になる人がいます。以前、勉強会をやっていたときに、自分の読解力がどのくらいなのかわからなくて不安です、というビジネス人がいらっしゃっいました。そのときお勧めしたのが、センター試験の評論問題を解くことでした。
現代国語の評論問題が8割出来れば、基礎力に問題ないはずです。満点である必要はないでしょう。必ずしも適切な問題ばかりだとは思えません。正解が出せても、違和感のある設問もあります。一定以上できれば、仕事に支障はないはずです。
センター試験の問題をお勧めした理由は、2つありました。解答がマークシート方式なので、点数化が容易であることが一つ。もう一つは、センター試験の評論文問題なら安心できるということです。問題の質が一定レベルを超えています。
2 知識量の裏づけ
私たちは、本を読むべきであって、問題演習をいつまでもやるべきではありません。問題文を作ること自体、大変難しいことですから、良問はそんなにたくさんありません。ビジネス人なら、一定以上の実力を確認したら、それで十分です。
たくさんの問題をやって、読解力がついたと感じている程度では、実際の仕事では不十分でしょう。自分の関心分野の本を読んで、一定レベルに達しない限り、文献を読んでも仕事での実践力はつかないだろうと思います。
知識量の裏づけがないと読めない本があります。いわゆる専門書が読めるようになるためには、基礎となる読解力が一定以上あるとともに、知識量を増やしていく必要があります。きちんと読めていない場合、読解力の欠如か、知識量に問題があるのが普通です。
読解の前提として、語彙の意味内容がわかっていることが必要です。専門書の場合、一般の文章には出てこない用語が使われますから、その意味がわからなくては、文の理解もままなりません。
問題演習をいつまでもやるべきではない理由も、あるところから読むべき文献との適合性が重要になるためです。基礎知識が必要です。必要に応じて定義を覚え、基礎的な思考を覚え、必須の事例も知っておく必要が出てきます。
3 文章との距離を感じ取る
教える側に立つ場合、すべての問題に正解を出さなくてはならないうえ、その方法を教えなくてはなりません。これは大変なことです。私も勉強のために、小学生と大学生に教えたことがあります。短期間でしたので、楽しい経験でした。
ささやかな経験しかありませんので、必ずしも確実な方法とはいえませんが、大学生に教えていたとき、読解力をあげる効果的な方法に気づきました。単に問題を解くのではなくて、問題文との距離感を感じとる意識が大切であるということでした。
書かれた内容について十分な知識があり、自分なりの考えがあるならば、相手との距離感を上手に取れるはずです。距離感が取れるということは、書かれた内容を評価する基準があるということです。評価する理由、しない理由も言えるはずです。
評価基準を作るには、相手との距離を測ろうと意識する必要があります。自分を基準にすると、この人は、ここまで言うがこれ以上は踏み込まない、といった考えの幅まで感じ取ることが容易になります。感じ取る根拠は、たいてい文中にあります。
大学生には良問を選んだ上で、内容を補助的に説明して、自分との距離を評価するように誘導することが、読解力の向上に効果的だとわかってきました。これらのことは、ビジネス人が知らずに、業務の中で行っていることだろうと思います。
もし不安があるビジネス人がいるなら、センター試験の評論問題をやってみてください。何回か解いてみると、皆さんだんだん出来るようになってきます。8割出来たら問題ありません。仕事にどれだけよい影響があるかはわかりませんが、不安はなくなります。