■ビジネス文の観点 2/1:一文の長さについて

1 短い文ばかりでは頭に入りにくい

前回、入試問題の設問の文章について書きました[ビジネス文の観点 1]。設問の一文を二つに分けたものを参考例にしました。その理由は、一文に情報を盛り込みすぎているからでした。この件について、一文が短い方がよいのですね…と聞かれました。

少し違うのです。最近は、一文を一行未満の長さにして、次々改行する文章まで見られます。それを勧める人もいます。原則40字以内の文が、一文ごとに改行されるなら、一冊の本もすぐに読めるはずです。簡単に読めるというニーズには合っています。

しかし、必要な情報が習得しやすくなるわけではありません。一行ごとに改行されると、一定以上込み入った話はかえって頭に入りにくくなります。改行しなくても、短い文章ばかりが続くのは、よくありません。思考が細切れになるためです。

 

2 名文家の書いた残念な文章

ビジネス文の場合、専門的な話が入り込みます。場合分けが必要なこともありますし、この前提なら、こうなります、と書く場合も出てきます。そのため文が長くなることがあります。文の長さを、一律に40字とか50字以下に…という発想は、好ましくありません。

事例で考えて見ましょう。画期的な操作マニュアルをつくった海老沢泰久は、名文家として知られていました。『沈黙のルール』で自分のマニュアル作成について語っています。文中、自分の工夫を説明するために、自分のマニュアルから文章を引用しています。

図5の画面の「次へ」の表示(図5の矢印部分)にマウスの矢印を合わせる。
矢印が「次へ」の表示に合ったら、マウスを固定したまま、マウスの左側のボタンを一回押す。

残念ながら、この文章はあまりよくありません。なぜでしょうか。

 

3 一文の基準:情報量と情報のまとまりの強さ

引用した文章は、同一語句の繰り返しが、うるさく感じられるはずです。二文に分けたため、よりいっそう繰り返しが顕著となっています。これは本来、一動作ですむ話です。一動作なら、原則一文で書きたいものです。以下の方がよさそうです。

図5の「次へ」の表示にマウスを合わせ、マウスを固定したまま、左側のボタンを一回押す。

盛り込まれる情報量と情報のまとまりの強さを基準にして、一文にするのか、文を分けるのかが決まります。引用文は、一動作を一文にし簡潔な表現にした結果、50字以内の文になりましたが、必要な情報を盛りこんで一文が50字を超過しても、問題ありません。

大切なのは、情報を盛り込む基準を認識しておくことです。一般に一動作と認識される程度の行為なら、一文で書くことを検討すべきです。一方、行為の記述の中に、実体の説明や、状態の記述を入れ込むのは、情報のまとまりを悪くする可能性があります。

前回の入試問題の設問の場合、「状態の記述」+「行為の記述」の構造になっていました。文に入れ込む情報量が多すぎるのに加え、情報のまとまりの面からも、二つに分割した方がよいだろうと判断することになりました。

 

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