1 「業務マニュアル」概念の変化
業務マニュアルの概念が、少しずつ変わってきているのを感じます。かつて、マニュアルという言葉には、あまりよいイメージがありませんでした。標準化され、頭を使わなくてもできる決まりきった作業というニュアンスがまとわりついていました。
1966年出版のドラッカー『経営者の条件』では、manual work という用語が使われています。「肉体労働」と訳されています。対比されるのは、「知識労働」 knowledge work です。あまりよい意味で manual という語が使われていません。
いまでもこうした文脈でマニュアルという言葉を使うことがあります。しかし一方で、業務マニュアルに注目する人が増えてきています。ノウハウを記述するという要素が注目されています。松井忠三著『無印良品は仕組みが9割』の影響が大きいかもしれません。
2 すばらしい店舗運用マニュアル:MUJIGRAM
業務が行われる最前線での工夫が残されないことは、もったいないことです。小さな工夫が積み重ねられて、業務の質が上がっていきます。共有すべき工夫をノウハウとして残しておきたいという気持ちになるのは当然でしょう。
無印良品では、MUJIGRAM という店舗運用マニュアルが作られ、商品の並べ方、接客、発注など、店舗での運営の基準が示されています。それらを店舗のスタッフからの提案で、改訂していきます。毎月1%、年に12%程度が改訂されているとのことです。
なぜこうするのかという目的が定義されている点も、すばらしいことだと思います。これなら成果をあげるだろうと思います。注目されるのも当然のことでした。しかし、簡単にまねできるものではなさそうです。
3 運用・改善と設計・構築の違い
MUJIGRAM がすばらしいのは、公開された一部分を見ただけでもわかります。服をどうたたんだらよいのか、写真を載せて、わかりやすいものになっています。これなら、お店に入ったばかりの新人アルバイトさんも、すぐに理解できるだろうと思います。
同時に忘れてはならないのは、これが店舗の運営マニュアルであって、これとは別に本部の業務マニュアルがあるということです。店舗共通で使われる、ノウハウ満載のマニュアルを作成し、現場が改訂していく仕組みを作ったのは、本部の経営陣でしょう。
MUJIGRAM は、フランチャイズ店の運用マニュアルに該当するように思います。ユーザーの中心は、アルバイトの人たちでしょう。本部の業務マニュアルがしっかりしているからこそ、こうした店舗の運用マニュアルが効果をあげているというべきです。
業務の設計・構築をきちんとしないかぎり、いくら運用・改善の部分を強化しても、限界があります。そしていま、業務マニュアルの概念に変化が起こっているのは、業務の設計・構築と業務マニュアルとが関係する領域なのです。(つづく)