1 良いビジネス文書とは
前回、良い文章の定義について書きました。これに対して、この定義は文学向けであって、ビジネス文書では適用しないのではないか、との指摘がありました。契約書など、定型性が大切で、それなしにはビジネス効率が落ちるというお話です。鋭い指摘ですね。
まず、良い文章の定義を確認しておきます。<①自分にしか書けないことを ②だれが読んでもわかるように書いた文章>というもの定義です。別な言い方をすると、個性的・主観的なことを、普遍的・客観的に書いた文章が良い文章だということになります。
この点について、(1)そのまま適用できないが、良いビジネス文書を考える参考になる、(2)ビジネス文書にも反復性と一回性の要素があり、一回性という要素はなくならない、(3)提案など、この定義がそのまま適応される場面がある…ということが言えます。
2 定型性文書の機能
ビジネス文書の中でも、契約書などは定型性が命です。定型的になっていれば、属人性が薄まります。その都度、労力をかけなくてはいけない領域が小さくなります。逆に言うと、反復する業務であっても、本来、その都度違うという前提があります。
おのおの違う要素がありながら、多くの事項を客観的に表現できる形式にした点に、定型文書の重要な機能があります。雛形に客観データを記して完成させる文書は、内容の解釈でも安定しています。定型文書における一回性は、案件のTPOとして記録されます。
しかし、これがビジネス文書の中核になったとしたら、組織は弱くなります。組織は学習する必要があります。新たに見出したこと、あるいは失敗や成功から学ぶことが必要です。それぞれの経験を学習することにより、一部の領域が定型化できるかもしれません。
3 多様性を生かすことが重要
学習する組織がどういう状況になるのか、杉浦和史のコメントが参考になります。システムのことを知らない業務担当者に、システムの仕様を考えてもらって、ユーザーの使いやすいシステムを作り上げる杉浦メソッドの一端が、このコメントから垣間見えます。
《自分しか書けないこと》とは、その人ならではの業務知識(属人化されている状態ではありますが)と捉えます。属人的で暗黙知化されてしまっている作業の中に、共有すべき情報、仕様に反映すべき情報があるはずで、業務分析作業の際には、現場の皆さんにこれを書き出してもらいました。
デカルト流の考え方では、人間の理性は各人が同じだということになります。問題に対する解答も、ノイズを排除したなら、同一の結論に達するという考えをとっています。しかし、人間は同一ではありません。経験から学ぶことが、個人に限らず組織にも必要です。
全ての人が同じ経験など出来ません。TPOが違う以上、違いが出てきます。新たな重要点を見出して提示する文書があったなら、それは良い文書であると言えるでしょう。定型文書だけでは不十分です。組織内の多様性を生かすことが重要になります。