1 危機を救った操作マニュアル
ウィンドウズ95が発売された後、購入した人の4割がウィンドウズのセットアップまでたどり着けなくて、問題になったことがありました。コールセンターがパンク状態になって、対応できなくなったのです。その状況を救ったのが、新しい操作マニュアルでした。
海老沢泰久が書いたNECの操作マニュアル「これならわかる パソコンが動く」でした。この操作マニュアルが出たためコールセンターへのお問い合わせが激減したそうです。セットアップまで7ページで説明しています。順を追った丁寧な説明でした。
このマニュアル成功の大きな原因には、文章がわかりやすかったという点が指摘されています。ただし、文章がうまいというのは、たんなる文章表現だけのことではありません。扱う内容の選択、記述するときの聞き取りの仕方まで、よく出来ているということです。
2 操作マニュアルの良し悪し判定法
「これならわかる パソコンが動く」を作ったとき、NECの担当者がこれだけあればパソコンを買った意味があると考えたものが3つありました。現在の言い方にすると、ワープロ、メール、インターネットです。現在でも、この3つが重要なままです。
操作マニュアルの良し悪しを判定する際に、私が重視するのは次の2つです。(1)どんな内容に重点を置いて記述しているか、(2)掲載されいる図の扱い方が適切か、という点です。とくに(1)がうまく行かないと、操作マニュアルは成功していないと推定されます。
この点、海老沢泰久のマニュアルはメリハリがついていました。一方、重点がなく平均的なものは、あまり使われない可能性が高いものです。使って役立つマニュアルならば、多機能の中でも、これをきっちりやってもらいたいという主張がこめられているはずです。
3 得意な分野に重点を置くこと
野口悠紀雄『パソコン「超」仕事法』では、パソコンが得意なものと不得意なものという観点から、利用の仕方を示しています。この本が出たのが1996年ですから、もう20年前になります。何でも出来ます…ではなくて、得意なものを使うという発想は重要です。
野口が指摘するパソコンが得意なものは、(1)ワープロ・(2)通信[メール・インターネット]・(3)表計算です。不得意なものは、(1)スケジュール管理・(2)名刺整理・(3)メモの3つです。NECのマーケティングをさらに一歩進めた形です。
こうした大枠がずれていなかったなら、その利用法は適切なものになる可能性が高いといえます。個々の記述の問題もたしかに重要です。しかし、それ以前の段階でこけてしまっている操作マニュアルが意外に多くあります。
操作マニュアルですべてを説明しようとしても、ほとんど読んでもらえません。網羅的に記載したマニュアルが存在することも重要なことです。しかし、それだけでは利用されません。利用される操作マニュアルの場合、得意な分野に重点を置くことが重要です。