■文書作成は創造性を刺激するという仮説

 

1 創造と文書作成の類似

創造とはどんなものか、畑村洋太郎によれば、<要素を組み合わせて、ある機能を果たす構造を作り上げること>ということになります[創造の基礎]。これをご覧になって、文書の作り方と類似していることにお気づきの方もいらっしゃったと思います。

私の場合、創造の定義を読みながら、文書を作るのに似ているなあと思っていました。文書を作ることは、創造性を刺激する訓練になるかもしれない、とそのとき思いました。これは仮説に過ぎません。

諏訪邦夫は『論文を書いてみよう!』で、<ある本に、「わたしたちはモーツァルトではない」と言うフレーズが書いてあって、はたと膝を打ちました>と書いています。その上で、<ベートーヴェン式で行こう>と主張しています。諏訪は麻酔学の先生です。

 

2 ベートーヴェン式

モーツァルトのような特別な天才なら、いきなり五線紙に音楽を記録していくことが可能かもしれません。しかし<論文をこんな「モーツァルト方式」で書くことは不可能と断言できます>と諏訪邦夫は書いています。

<論文は多数の構成要素(コンポーネント)からなっているもので、それが自然に頭に浮かぶということはありえません>というのが、不可能だと言う理由です。わたしたちはモーツァルトではないのです。では、ベートーヴェンの場合、どうでしょうか。

ベートーヴェンの作曲の方法は、<完成すべき仕事を細かい構成要素(コンポーネント)に分け、その個々のコンポーネントを作り上げ、最後にそれを組み合わせて全体を仕上げるという作業を行うのです>。「ベートーヴェン式」なら、私たちも真似できそうです。

 

3 メモから構成を考える

諏訪が「ベートーヴェン式」とするのは、散歩しながらメモ(スケッチ)をたくさん書き、そのメモから主題・導入のフレーズや伴奏のつけ方など、<部品を選び、配列を考え、頭の中で鳴らしては組み替え、その作業を繰り返して音楽を完成>する方式です。

頭の中で鳴らしたものを楽譜に書き、それを見直しているのです。つまり、<ベートーヴェンの音楽が、このようないわば「構造化」と呼ぶべきスタイルを採用して完成に至っている>のです。音楽の作り方と論文の書き方が同じだということです。

ベートーヴェン式のポイントとなるのは、<「メモ」という形式を目に見える形にしてはじめて、「構成」を考えることが出来ます>、という点でしょう。きちんとした文書を作る訓練をすることは、頭を創造的に働かせる…という仮説を改めて主張したくなります。

 

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