1 「が」を順接で使うと混乱する?
なかなか自分の伝えたいことが上手に伝えられずに、苦労することがしばしばあります。少し込み入った話になると、こちらの話が伝わっていないのが、相手の顔つきでわかってきます。どうしたらよいのか、いつものことながら苦労しています。
説明上手といわれる人から学ぶしかないだろう思って、池上彰『わかりやすく<伝える>技術』を買ってみました。いま目次を見たところ、<「が」はいらないが>という項目がありました。まだそのあたりしか読んでいませんが、またか…という気もしました。
<「が」は、通常は逆説つまり前の文章を否定する言葉です>から、順接で使うと混乱するとのこと。<文章の論理的なつながりを考えて話したり、書いたりする場合は「が」は逆説の意味にだけ使いましょう>とあります。
2 逆説でない「が」はダメか?
逆説でない「が」を排除するのは、清水幾太郎『論文の書き方』以来の通説なのかもしれません。「が」に頼っていては、「正しい文章」「立派な文章」が書けない…という主張をしています。たしかに清水の示した新聞の文章例は、弁解できない悪文でした。
清水は「が」の用法を示しています。(1) 逆説、(2) 前後の因果関係、(3) 並列・無関係…の3つです。(2)は例文がないので、正確な概念がわかりません。清水が問題とするのは(3)です。「彼は大いに勉強したが、合格した」という例文が示されています。
これは「勉強した」ことと「合格した」ことが親和性を持ちますから、「勉強したので合格した」がよいのは確かです。しかし、「彼は大いに勉強したが、落第した」がダメで、「彼は大いに勉強したのに、落第した」がよいというのは、理解不能です。
清水の主張は、実際には逆説以外の「が」の乱用を戒めている点では妥当なものでした。ところが、3つに分けたときに拙い分類をしたために混乱を呼びました。その後、おかしくない助詞「が」の使い方にまで、否定的な主張がなされるようになったようです。
3 前ふりを示す助詞「が」
池上の例文は、「本日は報告に長い時間をいただきましたが、そろそろ終わりにしたいと思います」でした。「~ましたが」とあるから、前の文を否定する逆接だと思っているところに順接の肯定文がきて、<肩透かしを食らったような気がします>とのことです。
池上は、<文章をダラダラつなげていく>ことを戒めています。この点、妥当な指摘です。しかし、例文はその事例に該当しません。よく使われるいい方ですし、肩透かしを食らった気にはなりません。この場合の「が」がおかしくないのは、なぜでしょうか。
この「が」は、ここまでの話が「前ふり」であることを示すマークだといえます。本来言うべきことは「そろそろ終わりにしたいと思います」のほうです。その前の「本日は報告に長い時間をいただきましたが」は、ありがとうくらいの意味でしょう。
二つの節が結合していて、両者に軽重がある場合、原則として後ろに重要な主張が置かれます。いわば英文法でいう主節、従属節です。この用語を使うなら、従属節がそこで終わることを示すマークとして「が」を使っています。この例文はおかしくないのです。