1 マネジメントの狭義と広義
マネジメントの本を読むとき、業務マニュアルを作る視点からすると、目的・目標・手段の順で考えるのが理解しやすいと、前回、書きました。ここで「マネジメント」の概念について、少し説明が必要かもしれません。
マネジメントには、広い意味と狭い意味があります。例えば、ドラッカーは「マネジメントのパラダイムが変わった」において、<マネジメントと企業家精神がコインの裏表であることは、そもそものはじめから認識してしかるべきだった>と書いています。
ここで言う「マネジメント」は狭い意味です。ビジネスを維持・運営すること、業務の構築・運用・改善のプロセスを指します。一方、企業家精神は、新しくビジネスを始めるときのエンジンの役割を果たします。ここまで含めた概念が広義のマネジメントです。
2 顧客の創造
『経営者に贈る5つの質問』のうち、狭い意味でのマネジメントに大きくかかわりそうな3つの質問に、前回、焦点を当てました。われわれのミッションは何か、成果は何か、計画は何か…は、既存のビジネスを見直すときに主に使われる質問です。
顧客は誰か、顧客にとっての価値は何か…という質問は、新たなビジネスを考えるとき重要になります。「顧客の創造」を提唱したドラッカーが、エンジンの役割を軽視するはずはありません。実際、顧客にとっての価値は何か…を最重要の質問としています。
「顧客は誰か」を問うことで、<顧客の価値を知り、組織にとっての成果を知り、行動のための計画を立てることができるようにな>ります。まず、<顧客を絞らなければならない>のです。これは、「誰に」「何を」「どう売るか」を考えることにつながります。
3 顧客から直接答えを得ること
いきなり顧客が誰であるかを考えても、なかなか答えが出ません。<「あなたの組織は、誰を満足させたとき成果を上げたと言えるか?」 この質問に答えるならば、その答えが、そのまま顧客は誰かを教える>…と、より具体的な質問を提示しています。
しかし、この答えでも完璧ではありません。<顧客のほうが一歩先>の場合も多いため、<顧客の変化に応じて自ら変化していくことが出来なければならない>…のです。そうなると、一層、顧客にとっての価値を考えることがむずかしくなります。
考える前に、<顧客が言っていることを知らなければならない>のです。<顧客に成り代わって自ら答えようと>してはいけないのです。<答えを想像してはならない。必ず直接答えを得なければならない>…このあたりがドラッカーの真骨頂かもしれません。
ドラッカーが大学院で教えていたとき、10年前の卒業生50~60人に、大学院が貢献したもの、いまも役立っていること、改善できること、やめるべきもの…を直接問うていたそうです。マーケティングのプロも、顧客からの聞きとりを基礎にして考えていました。
4 追記
『経営者に贈る5つの質問』では、「顧客は誰か」を問うてから、「顧客にとっての価値は何か」を問う形式が採られています。しかし、「誰に/何を/どう売るか」を考える場合、つねに「誰に」を考えることが優先されるわけではありません。
「何を」を優先することもあります。売り物を先に決めて、これを誰に売ったら良いのか、その際、どう売ったら良いのか…と考える形式が排除されるわけではありません。「誰に」を先にする点が、『経営者に贈る5つの質問』の特徴だとも言えます。
あたらなビジネスを考える人は、ビジネスの目的にそって、「誰に/何を/どう売るか」を考えます。このビジネスモデルを実践するために、さまざまな素材・材料を組み合わせて、サービスや製品を創造します。それを管理し、発展させていくことになります。