1 自己PRに関する残念な指導
早くも来年の就職のための準備が学校では始まっています。自己アピールとか自己PRを書いて、就職担当の方に見てもらっているようです。学校側が参考にするようにと、サンプル例を示して、学生がそれをなぞっています。いつもの光景かもしれません。
たまたま見せてもらった自己アピール文の出だしが、すべて「私の強みは…です」になっていました。学生に示されたサンプルが、そうなっていたようです。悪い冗談のような話です。もちろん強みを生かすことは大切でしょう。しかし、担当者の見識を疑います。
「強みを生かせ」とはドラッカーの一貫した考えです。『経営者の条件』4章の章題でもあります。強みの上に成果を上げることは大切なことでしょう。しかし、<誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思う。だが、たいていは間違っている>のです。
2 一方的な宣言をしない
自分の強みを知るには、他者と交わりながら、自分を客観視することが必要です。自分の成果をふりかえって、自分が抜きん出ている点を発見する必要があります。学生たちはこれから強みを発見していく存在です。自己PRでは別のアプローチが必要でしょう。
どうしたらよいでしょうか。川村二郎は『炎の作文塾』で、<「自己PR」は、読んだ人に「書いた人と会って、話をしてみたい」と思わせなければ意味がない>と言います。したがって、<一方的な宣言をしない。独自に工夫したことを書く>ことが必要です。
「私の強みは…です」と書いてしまうと、もうその先が知れています。<「私は誠実な人間です」とか、「忍耐力と根性には自信がある」とか>書く人と、<会って話をしてみたいと思わないでしょう>。まさにその通りです。
そうではなくて、<体験を話したとき、友達が「それで、それで」と詳しく知りたがった出来事や、おもしろがった話>を書くのが原則です。<実例をきちんとわかりやすく書くことです>。もちろん、これらは簡単には見つかりません。
3 魅力的な自己PRの条件
川村は言います。<これから就職しようとしている学生は誰でもみんな一生懸命、必死なのです。その中で目立つ手っ取り早い方法は、魅力的な「自己PR」を書くことでしょう>。自己PRを書くことは、自分を振り返り、これからを考えるいい機会になります。
魅力的な話とは、どんなものでしょうか。<本気になること、そして一生懸命であることほど、人の心をつかむものはない>のです。あるいは、<どんな創意工夫をし、どんなことがわかったか。その実例をきちんと書くこと>です。
つまり、<読む方が知りたいのは、君が何をしたかだ。君が何をしてきたのかを知って、はじめて「そういう人間なのか」と判断するのだ>ということ。<一つのエピソードがきちんと書かれていれば、筆者の人となりは十分にわかってもらえる>のです。
きちんと書くとは、(1)<何のために何をしたか>を書き、(2)<この体験が現在の君にどう生かされているか>を書くことです。そのためには、<その文章で何が言いたいかを端的に表す><自分なりの見出しを考えて>書いてみたらよいと、川村は勧めています。[つづく]