■法律家 西原春夫の文章作法:ビジネス文書作成の参考に 2/2

1 報告文書の作成…目的の把握

『短文・小論文の書き方』にある西原の文章の章題は「小論文の書き方―法律学の立場から」というものです。興味深いことに、この40頁程度の文章の中に「実務家の報告文書」への言及があり、報告文書の書き方が一筆書きされています。

法律の小論文とビジネスの報告書では、項目の立て方も論旨の運び方も、違うことが多いのは確かです。しかし、<出題者と読者の立場になってみる、という点は試験答案とまったく同じ>である…というのが西原の主張です。

報告文書の作成を命ぜられた部下としては、上司が何に使うために調査を命令したのかを考えることがぜひ必要である。単なる資料提供であるのか、提案ないし結論の示唆ぐらいが欲しいのか、それともはっきりした提案・結論が欲しいのか、その点をまず的確に把握しなければ報告文書の書きようがわからない。

西原の主張の眼目は、目的に合わせて文書を作ることが大切だということです。出題者が何を求めているのか…を汲み取って、書き手は相手の目的を充たす文書を作る必要があるということでしょう。目的の把握が第一になるのは、そのためです。

 

2 目的に合わせた3パターン

西原は、報告文書を3つのパターンに分けて論じます。(1)はっきりした提案・結論が求められる場合、(2)提案・結論の示唆が期待される場合、(3)たんなる資料提供の場合…の3つです。それぞれについての考えを見てみましょう。

(1)求められる提案・結論を最初に示すこと。<報告文書の冒頭にその提案・結論を書き、次にその理由を項目毎に番号を付して列記し、最後に「以上の理由により、冒頭に記したような解釈(方策、指示など)を適当と考えます」といった言葉で結ぶこと>です。

(2)提案・結論の示唆で十分な場合、自説を強調せずに示すこと。<問題ごとにいろいろな考え方を整理し、場合によってはそれに対し>私見を述べ、最後に、私見を<自信をもって、しかし形式は遠慮深くつけ加えておくのが適当>だということです。

(3)資料提供が目的の場合、資料を利用しやすい形式に整えること。<上司がそれを材料として決断が下しやすいような形にまとめておくことが必要>です。簡潔で、内容が把握しやすいシンプルな形式になっていることが求められます。

 

3 文章のトレーニング法

法律文書の書き方の中に、ビジネス文書の報告書の書き方が示されるのは、なぜでしょうか。西原は法律を書くときの文章について、その特殊性よりも共通性を重視しているからでしょう。トレーニングは<日常生活の中で自然に行えるようにすべき>なのです。

よい文章に出会ったら、それを感じ取れるようになることが大切だと言います。そこでなすべきことは、<それがどうしてよい文章なのかを分析してみること>です。いつでもでなく、<時間があるとき、その気になったときにやればいい>ということになります。

法律家としての文章書きのトレーニング法としては、むしろ主語・述語のはっきりしている外国語風の文章を書くように努力し、いったんそれが身についたら、またそれを長い年月かけて崩していく、という方法をとるべきであると思う。

ここに示されたトレーニング法は、法律家のみに適応するものではなさそうです。谷崎潤一郎の文章が翻訳しやすいと言われるのも、かつて主述関係のしっかりした文章を書いていたからでしょう。ビジネス文のトレーニング法も同じだろうと思います。

⇒「法律家の文章:ビジネス文書作成の参考に 1/2

 

 

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