1 失敗を利用する
先日、P.F.ドラッカーの『経営論集』所収の「事業の陳腐化」(The Theory of Business) を再読しました。この中でドラッカーは、組織が行っている事業が有効でなくなっていることを示す兆候の一つとして、予期せぬ成功と失敗を上げていました。
「予期せぬ」と言うためには、予期できる体制が必要です。多くの組織が目標を立て、成功を定義しています。その中にはミスを一定以下にするという目標もありますから、成功と失敗は一体化しているのかもしれません。それをさらに一歩進めたいものです。
失敗を積極的に利用したほうがよいという考えのもと、畑村洋太郎は失敗学を提唱しています。失敗の定義を「こうなるだろうと思って行動したが、初めに定めた目的を達成できないこと」としています。失敗を管理することは組織にとって重要です。
2 失敗学のすすめ
失敗は日常的に起こります。それを組織が管理するために、失敗を生かす仕組みが必要です。業務マニュアルの作成のときにも、こうした観点が求められます。その意味でも失敗の概念を把握することが重要になります。失敗学が参考になるはずです。
畑村は『「失敗学」事件簿』で失敗学会の設立に関連して、失敗学を簡潔に説明しています。そこで「失敗の法則」を確認しています。(1)失敗は予測できる、(2) 失敗情報は隠れたがる、(3)失敗は変わりやすい、(4)ハインリッヒの法則…の4つです。
失敗には許される失敗と許されない失敗があって、失敗を積極的に生かしていくことが必要だという点が基本になっています。失敗をプラスに転化して、成長・進歩につなげること、一方、同じ愚を繰り返さないために、失敗する道筋を知っておくことが必要です。
3 4つの失敗の法則
失敗の知識伝達が重要になります。失敗情報を使える知識にまとめておくことが必須なのです。事例だけでは使えません。失敗にいたる脈略がわかる形式に記述していくことが基本になります。こういう形式なら、「失敗は予測できる」と言えるのかもしれません。
組織にとって大切なことは、「失敗情報は隠れたがる」のを防止することです。失敗の原因追求と責任追及を分離した上で、失敗情報を生かして原因究明と再発防止を行うようにして、さらに失敗情報が組織にいきわたる仕組みをトップダウンで作るべきでしょう。
このとき失敗の性質を把握しておくことが大切です。失敗情報は伝達されると「変わりやすい」、また単純化されやすい性質があります。自分の知った情報は不完全であるとの前提に立つことが大切でしょう。そのためには記述しておいて、見直すことが有効です。
記録をまとめるとき「ハインリッヒの法則」を知っておくことも役に立ちます。1つの重大災害の裏には、29件の軽い災害があり、その背景には300件程度のヒヤリとする体験があるという法則です。ヒヤリ体験の対策が大失敗の防止になるかもしれません。