1 ルールを表す言葉
先日、S.I.ハヤカワの『言葉と人間』を参考にして、<業務マニュアルに「why」の記述が必要な理由>を書きました。ところが、意味がよくわかりませんでしたと言うコメントを複数の方からいただきました。わかりにくかったようです。もう一度、書きます。
まず「社会的契約の言語」という言い方がわかりにくかった可能性があります。ルールを表す言葉というほどの意味です。言葉には、動作や状況を語るだけでなくて、ルールを前提にした言葉があるという指摘をS.I.ハヤカワはしています。
私達は、ルールを表す言葉を子供の頃から身につけています。ルールがあるという共通認識がないと、「こんどは僕の番」という表現は意味を成しません。このルールの認識は、言葉の使われ方からしても、子供の頃から持っていると言えそうです。
2 未来をモデル化する表現
ビジネスでは、ルールを表す言葉が中核的な存在だと言えるでしょう。このルールを表す言葉は、「こういう場合には、こうする(こうなる)」という形式でルールを表現しています。そのためルールを表現するには、今後起こることをモデル化する能力が必要です。
今後起こる未来をモデル化して表現する場合、概念を「抽象化」「象徴化」していると言えるでしょう。つまり具体的な事例を示す代わりに、私達は「こういう場合」という表現を使います。「こういう場合」を表現するには、言葉が必要不可欠です。
業務に従事する者が業務について理解できるのも、業務をモデル化して「こういう場合には、こうすればよい」との説明がなされているからです。この説明のときに使う言葉を、S.I.ハヤカワは、ルールを表す「社会的契約の言語」と呼んでいます。
3 ルールが守られるために必要なこと
ルールを表す言葉があるからこそ、私達はルールにそった行動をとることが可能になります。私達が業務を行う場合にも、ルールが必要です。それを組織の皆が守ることが必要です。皆がルールを守ることによって組織の行動が秩序づけられ、成果があがります。
逆に言うと、各人がルールを守ると予測されるからこそ、組織の成果が予測可能になるのです。言葉は、<ある種の形の行動を規定することのほかに、その規定に従う意図ないし決心を生み出す>存在だとS.I.ハヤカワは言います。
つまり業務マニュアルには、ルールを規定するだけでなく、ルールを守ってもらうための記述が必要なのです。守ってもらうには、なぜ、このルールが必要なのか、合理的な説明が求められます。これが業務マニュアルに「why」の記述が必要とされる理由です。