1 図式化と定量化
物事を図式化すると、わかりやすくなるものですが、ときどき戸惑う現象に遭遇します。わからないという感覚が、図式化することの間違いを警告しているように感じることがあります。単純化することへの違和感と、真実はシンプルだという思いが絡みます。
図式化の場合、概念が明確になっていることが前提です。複数の概念を対比するのが図式化の基本といえます。ところが物事の概念は、そんなに明確ではありません。明確に定義できるものならよいのですが、そんなに単純に割り切っては困るということがあります。
この点からすると、定量化できる概念が、図式化に向いていると言うべきでしょう。概念の範囲を囲めるものなら、複数の重なり合うベン図を作ることも可能です。こういう場合、図の恩恵にあずかることができます。上手に作った図はわかりやすいものです。
2 図式化と体系化
ご存知のようにドラッカーは、物事を図式化することを警戒していました。スパッと割り切った考えに対して、そんなに物事は単純ではないという考えを持っていました。物事を把握するときに、定量化でなくて形態をとらえるべきだという考えの持ち主でした。
形態をとらえるためには、体系化が必要になります。全体の構造がどうなっているかということを探る必要があります。構造を表現しようとしてみるとわかることですが、構造化・体系化は図で表すよりも、文字で表すのがふさわしいものです。
以前、上田惇生先生に、『抄訳マネジメント』の章ごとにあった図がなくなったのは、何となくもったいなかったと申し上げたところ、ドラッカーがああいう図を嫌がると思って、『エッセンシャル版』になるときにやめることにした、とのお答えがありました。
3 考える技術:要素と構造
何かを考えるとき、私たちはある種の図式化をしようとしたり、構造を考えてみたりします。たいてい最初は、思いつきに過ぎないものです。最初から厳格に詰めた話をしようとすると、せっかくの思いつきが消えてしまうことになりかねません。
何かを思いついたなら、まずメモに残し、そのあと検証する必要があります。この検証の過程が考えることだと言えるでしょう。思いつきは直感的なもので、「勘」の部分がかなりあるはずです。それを分析していくこと、いわゆる読んでいくことが必要となります。
「読み」の武器は論理になるはずですが、そのとき、定量化がうまく行く概念なのかどうか、このあたりがポイントになりそうです。簡単に定量化できないことが多いため、図式化はかえって難しいという意識が生まれます。
何かを考えるとき、図式化よりも、まず構造を考えることのほうが優先されるべきだと思います。十分考え抜かれたあとなら、図式化できる領域も拡大しているはずです。全体を構成する要素と構造がどうであるのか…を探ろうとすることが、考える技術になります。