1 小さくはじめるとは
新しいビジネスをはじめるときに、小さくはじめるべきだという考え方があります。マネジメントに関心をお持ちの方なら、耳にしたことがあるはずです。ドラッカーも言っています。その後のマネジメントの本でも言及しているものがたくさんあるはずです。
先日、このことをそのまま聞かれました。どの本に書かれていたか忘れたけれども、小さくはじめるってどうすることですか、よくわからないです…とのことでした。ささやかに、小さな目標を立てるというのではなさそうですね…と追い討ちをかけられました。
たしかに、身の丈にあわせて、余裕のある資金の範囲で計画をたてて、失敗してもたいした痛手がないように、というのとはすこし違います。大きく考えながら、一番強いところから、小さくはじめることだということになりそうです。
2 選択と集中:アップルの例
マネジメントの戦略分野で、よく知られているものに「選択と集中」というものがあります。皆さん、この言葉をお聞きになっているはずです。多くのものに手を広げすぎずに、少数の有力なものに絞るということが、小さくはじめるということの一つになります。
『ゼロ・トゥ・ワン』でピーター・ティールは、アップルに戻ったスティーブ・ジョブズの話をしています。<製品群を絞り込み、10倍の改善を望める少数のプロダクトに集中した>からこそ、アップルがクールな製品を開発して復活したというのです。
<ジョブズはアップルをクールな職場にしようとしたわけじゃない>とティールは言います。少数に絞ったから、製品がクールになったということです。その分野で圧倒的なものを作るには、対象を少数にしないといけない…ということになります。
3 圧倒する領域:Amazonの例
別の観点から言うと、ある分野や領域で圧倒できるところを攻めるということが、小さくはじめるということです。競争の激しい大きな市場に、スタート時に出て行かないことです。小さな市場で競合しないように、他社との差別化を図る必要があります。
ティールは、Amazonの例を挙げていました。<ジェフ・ベソスは創業時から全てのオンライン市場を支配するというビジョンを持っていたけれど、きわめて意図的にまず本から始めた>と言います。書籍という限定された領域で成功することを優先させました。
ネット書店なら物理的な在庫を抱える必要がありませんし、<書籍なら何百万タイトルでもカタログ化できる>という強みがあります。Amazonは、まず書籍の分野で他を圧倒するという戦略に基づいていたということです。その後、周辺領域に販売を広げました。
『ゼロ・トゥ・ワン』の中で印象的なのは、競争しない独自のものを作り出すこと、市場を圧倒できる領域に絞ってスタートすべきだという点です。小さくはじめるとは…と聞かれたとき、私はティールの本を思い出しませんでした。好事例として記しておきます。