1 英語五文型の欠陥
池上嘉彦は、学校の英文法に<何となく合点が行かない>経験をもとに、『<英文法>を考える』を書いたようです。「<文法>の限界」という章を設けて、<いわゆる「五文型」の不十分さ>という項目から論じはじめています。興味深い内容です。
<「五文型」という考え方は、日本の英語教育での[学校文法]の根幹をなしているといっても差支えないと思える位である>…と池上は言います。ところが<世界の英語教育界のすべてで認められている確固とした考え>ではないと言うことです。
五文型には、<致命的な欠陥>があると指摘しています。すでにこれを是正する文型分類が、<現代英語の文法に関しては文句なしに最も権威があるとされている>文法書である A Comprehensive Grammar of the English Language で採用されているそうです。
2 合理的な英語の七文型
五文型を是正した文型分類は、<次の七個の型があげられてある:SV,SVO,SVC,SVA,SVOO,SVOC、SVOA>となります。<Aという符号は [副詞類](adverbial)のこと>です。五文型に、SVA と SVOA が加わって七文型を形成しています。
たとえば、「He went to the station.」という文は、SV型と認定されます。しかし「行く」という場合、<原則的に[~へ行く]という>形が自然です。実際、「He reached the station.」という「駅に着いた」を意味する文なら SVOの型になります。
日本語にしたら同じく「駅に着いた」となりそうな「He arrived at the station.」の場合、SV型です。動詞が前置詞をとるか、とらないかで文型が変わります。上記例文の「to / at the station」をAと認定して、SVAの型としたほうが合理的かもしれません。
3 基本文型の基本原理
池上はさらに進んで7文型でも不十分な点を指摘しています。例えば、「A cat bit a rat.」と 「John receive the letter.」はともに SVOの型です。前者は動作主が行為をしている文なのに対し、後者は状態を表している文だから構造が違うと指摘します。
この二つの文を、<同じ文型に属するということで、これらの文の間の重要な構造上の差異というものに目を向けるのが妨げられてしまうということも可能である>と池上は書いています。これは基本文型に対するバランスを失した考えというべきでしょう。
文構造の共通性をもとに文を組み立てる方法が、基本文型の基本原理です。同じ文型に分類されるものに差異があるのは当然でしょう。「噛んだ」のも「受け取った」のも行為の能動と受動であり、それが同じ文型で表現されるという点が重要です。
<重要な構造上の差異>が理解しにくくなる心配はないでしょう。逆に共通の型で表現されるという理解が得られるはずです。「最も権威がある」英文法書が7文型を採用したのは合理的なことでした。7文型というのはバランスのよい分類だと思います。