1 業務改善の研修が役に立たない
新しい年度が始まりました。今回、業務の記述と業務の整理について思いつくまま書いてみます。業務改善とか業務改革という言葉をお聞きになることがあっても、業務の記述とか業務の整理という言い方はあまりしません。私自身、この言葉が妥当かどうかわからずにいます。業務改革などとはちょっと違う手法です。
数年前から、業務の整理・記述という言い方をするようになりました。ある大手メーカーの方から印象的なお話がありました。業務改善の研修をやり、その上に業務改革のコンサルをお願いして、何となく効果がありそうに思ったけれども、それだけで終わっている、実際の成果が上がっていないのに驚くというお話です。
こちらがそれまでお話ししていたことを、そのままおっしゃっていただいた感じでした。自分たちで業務が書けなくては、何も変わらないことが分かったとおっしゃるのです。その通り、その通りと思いながらお話を伺いました。自分たちで自分たちの行っている業務の状況が把握できなくては、改革などできるはずありません。
業務改革というのは、結果に焦点を当てています。業務改善も同じだろうと思います。しかし業務の記述と整理というのは、設計図を書くようなものです。当初の設計に基づいて行われているはずの業務が、実際のところどうなっているのかを確認する作業です。これ自体で成果は上がりません。成果の前段階の概念です。
2 現実の業務に寄り添って業務を整理
業務改善や業務改革を言う前に、もっと現実の業務に寄り添ったところからスタートすべきだという考えが、業務の記述と整理の基礎的な発想です。業務を改革するなら、新しい業務モデルを構築する必要があります。それができるくらいなら、現状の業務をモデル化して現状はこうであると示すことなど楽にできるはずです。
ところがそれは簡単なことではありません。現状の業務の状況を示すということは、実質的に現在の業務を構築する作業と同じです。本来かくあるべしと思っていたことが、そうなっていないこともあります。ルールが組織にいきわたっていないこともあります。それこそ業務が生きていることの裏づけなのかもしれません。
記述をしていくと、不明確なところが出てきます。不明確な現状に対して、現状がまとまっていないことがわかるようにマークしたうえで、ここはこうなっているはずのものだと記述することが業務の整理につながっていきます。もちろん「こうなっているはずのもの」というのは、現状そのものではありません。
現状そのものでない以上、置き換えということです。仮にであれ何であれ、あいまいなルールを明確な形式に置き換えていかなくては、現状の業務をシンプルに把握できません。この置き換え作業を検証するプロセスを加味しながら、結果として業務が整理されていくという手法をとります。
3 業務フローは業務をチェックする道具
では業務の記述とか整理とか、何をするのでしょうか。一つの成果物が出来上がって、それで終わりではありません。設計図という概念に近い成果物というならば、業務フローがそれにあたるかもしれません。業務フローといっても、詳細なものではありません。大枠をみていくことを旨としています。
業務が整理されているからこそ、業務フローがシンプルになるといえます。業務フローを作っていけば、業務の中の濃淡を痛感することになります。重要な部分がどこであるかを意識することになります。業務プロセスをみるための道具である業務フローが、業務の整理のされ方、流れのありかたをチェックする道具になるのです。
個々の業務を記述していきます。それらが整理されているなら、きれいに業務フローが出来上がるはずです。ところが業務というものは、重要度や人手や複雑さが均一化されないままに行われています。それらを整理してから記述することなどできませんから、粒のバラバラな業務の記述ができてきます。これはラフスケッチにもならないレベルです。
しかし、ラフスケッチ以前のスケッチをもとに全体の業務を見ていくしかありません。個々の業務のスタートとゴールを確認し、鎖状につながる業務を並べていく作業が必要です。業務が次々とバトンタッチされていくことによって、業務が流れていきます。流れが途切れたら、そこで業務が途切れます。
4 ポイントになる業務を見出す
記述をする業務領域のスタートとゴールを把握し、その大きなゴールまでの間に、マイルストーンとしてのゴールが並んでいきます。これが並んでいるからこそ、鎖になります。当然のことですが、この鎖は等価ではありません。ポイントになる鎖がどれであるかを見出す必要があります。
ご存知の例でお話ししましょう。お店のレジ業務があります。レジ業務の作業手順は簡単に記述できそうです。その手順を書いたなら、業務を把握できたことになるでしょうか。手順以外で大切なことは何でしょうか。手順を決める前に、レジ業務とは何のためにあるのかという目的を確認する必要があるはずです。
じつのところ最初から目的が明確なわけではありません。レジ業務の目的とは何でしょうか。たいていの人の答えが、迅速で正確な会計だということになります。その通りなのでしょう。しかし、それだけでしょうか。レジ業務は、お客さんがお店から外に向かう重要な関所に該当する業務です。ここの通過がそのお店の印象を決定づけます。
何のためにお店全体の業務があるのかを考えたなら、お客様からのご愛顧が最重要であることは明らかです。レジ業務でお店の印象が劣化したなら、それまでの努力はむなしくなります。おそらくレジ業務には、お店の印象作りという目的あるいは機能があるはずです。それならば業務はどうあるべきでしょうか。 (つづく)