1 OJTと業務マニュアルの役割分担
業務マニュアルに作業手順の詳細を書いていくと、厚い文書が出来上がります。内容豊富な文書が実際に使えるでしょうか。あえて言うまでもないことでしょう。文書が厚くなるほど、内容が詳細になるほど、使いにくくなります。業務マニュアルを見ながら、業務作業を行うことは、ほとんどありません。
多くの業務は実際の職務の中で、身につけていくことになります。具体的にはOJTの実施により、業務を知りそれを身につけていくことになります。業務作業を行うために業務マニュアルを見るのではありませんから、業務マニュアルに記述するのは、業務の大枠だけで十分だといえます。
業務マニュアルに書くべきことは、この業務によって何をなすのかという目的、この業務を行うときの指針などです。こうした業務の目的や指針、ルールを書いておき、それを確認することによって、業務の本来の目的や業務の成果を知ることが出来ます。
OJTと業務マニュアルは役割を分担しています。業務の全体像を確認するときには文書としての業務マニュアルが大切です。日々の業務の遂行のためには、OJTが重要になっています。
2 問われるOJTの質
実際の業務を遂行するために、OJTは不可欠な存在です。そのためにOJTがどう行われるかが問われることになります。OJTをどう実施するかによって、業務の習得に違いが出てきます。OJTの質が業務の質に大きな影響を与えることは間違いありません。
組織はOJTの内容を把握しておく必要があります。OJTをどう行うかは、組織にとって重要な問題です。実施後に報告書を作成することはよくなされていますし、それも大切ですが、それ以前の問題として、OJTがどうなされているのかが問題です。
現在、多くの職場で個人に丸投げというべき形式のOJTが実施されています。このこと自体、合理性もあります。重要な業務ばかりではありませんから、実施を先輩に任せてもまず問題は起きません。丸投げは楽です。しかし重要な業務では、OJTの質が問題になります。
ここが勝負になるという業務があるはずです。重要性の濃淡によって、OJTへの取り組みも変わってきます。大切な領域ではOJTのプログラムと実施のポイントを記述しておく必要があります。これがOJTマニュアルです。
3 コツがわかれば30分で作れる
OJTマニュアルの大きな特徴は、実施する人にスキルがあるということを前提にしている点です。指導する側に十分な実力があるという前提ですから、詳細を書いておく必要はありません。どう教えるかのポイントを書いておけばよいのです。
このことはOJTマニュアルの作成時間にも反映されます。業務マニュアルの場合、作成に数か月単位の時間がかかります。全社的な見直しとなると、年単位の時間がかかることもあり得ます。しかし、OJTマニュアルの場合、1時間あればほとんど完成します。ちょっとした作り方のコツがわかれば、30分でできるはずです。
実際、前回のOJTマニュアル講座では、受講された方全員が自分の作りたいOJTマニュアルを講座の時間中に作ることが出来ました。2年間作れなかったOJTのプログラムができたと言ってくださった方がいました。
まだこうした講座自体がないようです。セミナー会社が集客に苦労していると思います。申し訳ない気もしますが、いまの相談の状況からすると、OJTマニュアルが重要になることはほぼ間違いないように思われます。[⇒ご興味ある方はご参加を]
4 指導者側が勉強になるOJTマニュアル作成
OJTマニュアルの作り方のコツを少しだけ書いておきます。業務に関することですから、基本は業務マニュアルの作り方とそんな違いません。
例えば、業務マニュアルの作成によって成功を収めた組織があります。営業成績が圧倒的な人から営業方法を聞き取って、その方法を基準にして標準的な営業スタイルを作り上げた事例です。この営業マニュアルのおかげで成果が上がりました。
OJTマニュアルの場合、当事者が教える形式をとりますから、聞き取りが不要になります。自分がどうやってきたのかをメモして、それを整理する作業がOJTマニュアル作成の基本です。それを組織が承認すれば、すぐに実施できます。
大切なのは、ほとんどの人が実行できる形式にしていくことです。他人が真似のできない属人的な形式では、成果が上がりません。そのため作成者は、自分が何げなくしていたことを意識的に整理していくことになります。何でそんなことをしていたのか、振り返ることにもなります。
もうお分かりかと思いますが、こうしたOJTマニュアルの作成によって、指導する側がとても勉強になるのです。圧倒的な人を教育することは出来ませんが、教える立場に立ってもらうことが、飛躍するきっかけになることでしょう。その意味でも、OJTマニュアルをきちんと作ることが組織にとって大切なことだと思います。