■「標準化」と「すり合せ」:冨山和彦『稼ぐ力を取り戻せ!』を参考に

1 「標準化」と「すり合せ」

業務マニュアルがないという会社はたくさんあります。しかし仕事の仕組みが決まっていないという会社は少ないはずです。ここで問題になるのは、オペレーションをきちんと記述しているかどうかという点になります。

よく詰められたきちんとした仕組みになっているなら、それは記述されているはずです。メーカーでは記述がなされている会社も多く、仕組みの改善が繰り返されています。そうした会社のほうが、業務マニュアルが作れないということを気にます。

話をお聞きしていくと、いまのオペレーションには必ずしも満足していなくて、詰めが甘いのですという流れになります。たいてい標準化の仕方が問題になります。仕事の手順を標準化したほうがよいのかという質問がありますが、程度の問題です。それよりももっと大きな標準化が必要な場合がほとんどでしょう。

こうしたことを考えるときに、冨山和彦の『稼ぐ力を取り戻せ!』(2013年刊)は参考になります。この本で示されている「標準化」と「すり合せ」という組合せで考えてみると、理解しやすいはずです。語られていることは日本企業全体にわたる大きな話ですが、自社のことを考えるときに、さらに関連の部門を考えるときにも役立つと思います。

 

2 属人化させない方法

知識社会になって、組織にとっても人材が大きな要因になってきています。人材育成をどうしたらよいのかが問題になります。人材育成を大切にする会社がかつてたくさんありました。今でも大切なことです。しかしこのとき、冨山の指摘も考えておかないといけない大切なポイントになります。

「ものをつくる前に人をつくる」と言ったのは松下幸之助だが、一人前の職人が育つには時間がかかる。ところが、現在のようにビジネスサイクルが早くなってくると、人の育つスピードよりも、モノのサイクルが入れ替わるスピードのほうがはるかに速くなってしまう。そのため、時間をかけてようやく人が育った時には、その人が必要なくなるということが往々にしてある。 [p.21]

さらに人材育成がうまくいった場合にも、問題が生じます。しばしば属人化の問題としてとらえられています。日本の組織では、驚くほど特定の個人に依存している業務が多くあります。その人の代わりを見つけようとしても、簡単にいきません。属人化してしまったあとでは、修正はかなり難しいことになります。

その人がいなくなっても、チームのメンバーを入れ替えても機能するようにする必要があります。[標準的なマニュアルがあれば、別の五人を招集しても、すぐにチームとして機能する](p.23)。すぐに機能するようにしておくことは、組織のある種の義務です。

 

3 生産性の向上が最重要問題

何度か聞かされた話があります。業務マニュアルを作ったことがないので、教えてほしいという依頼があって出かけていくと、担当者は作り方さえわかれば、すぐにできるのですけれどもと言うのです。お笑いのような話ですが、本当にそうおっしゃる方がいます。そのくらいレベルが低いとも言えます。

冨山も書いています。[日本のメーカーは、標準化やマニュアル化が極端に苦手である](p.23)。しかし日本の組織の中でメーカーは、相対的にいえば圧倒的にレベルが高い業種です。[精密でなくても、達人の方法論をできるだけマニュアルに分解して、機械と普通の人間でも似たレベルの仕事ができるように再現性を持たせる。これが標準化アプローチである](p.26)。

大枠を標準化するのは当然のことです。これがオペレーションそのものです。もちろん各ステップでの作業手順をすべて標準化するのではありません。大枠を標準化するからこそ、自分たちの強みに集中できます。[すり合せこそ自分たちの強みだ、どうしてもそこは残したいと言うなら、そもそもすり合わせが生きる事業領域を選ばなければならない](p.32)のです。

組織の生産性が問題です。成果がない原因の一つが標準化の欠如です。[すり合せを極めれば極めるほど、特殊化が進み、規模の経済が利かないという問題に必ずぶつかる。プロダクトごとにすり合わせているから、部品は特注品ばかりだし、技術も特殊なものばかりで、他への応用が利かないのだ。 (pp..17-18)

すでに書いた通り、これはメーカーに限らないどころか、メーカーは他の業種より優れているということです。ドラッカーが『乱気流時代の経営』で生産性を問題にしたのは1980年のことでした。日本の組織では最重要の問題であり続けているように思います。

 

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