1 マニュアル作りが得意なアメリカ人
操作マニュアルにおいても業務マニュアルにおいても、日本のマニュアルの水準は満足できるものではありません。マニュアル作りでも実績がある中井久夫は、[マニュアル作りのまずさ加減は有名]と『清陰星雨』に記しました。残念なレベルにあるのです。
なぜでしょうか。その理由の一つに、ルール化が苦手だということがあげられます。同じ本で中井は、アメリカ人はマニュアル作りが得意だと書いていました。アメリカの本を見ると、こういう手順で進めるのがよいという形式の記述にしばしば出会います。
例えば『道は開ける』で、D・カーネギーは「悩みを解決するための魔術的公式」を紹介しています。(1)最悪の事態を見出すこと、(2)やむを得ない場合、それを受け入れること、(3)そこから最悪状態を改善する努力をすること…というルール(公式)でした。
2 マニュアル化の基礎となるルール作り
業務マニュアルについて考えるとき、SOPという概念が補助線として使えるだろうと思いました。前回SOPを「組織でルール化すべきことの全体」と定義してご紹介したのも、こうした意図からです。しかし、わかりにくいという方もいらっしゃいました。
なじみの薄い用語をいきなり定義されても、わかりにくさは残ります。それを補助線に使うのは無理があったのかもしれません。大切な点は、普段から意識してルール化しようとすることが成果を上げること、そしてマニュアル作りの基礎になるということでした。
日本人は経験をルール化する習慣があまりないのかもしれません。せっかくの実例があっても、それを使える形式にしていかなくては、なかなか成果につながりません。経験を使える形式にする有望な手段がルール化だといえます。意識的に行う必要があるのです。
ルール化の一つに標準化があります。冨山和彦は『稼ぐ力を取り戻せ!』(2013年刊)で[日本のメーカーは、標準化やマニュアル化が極端に苦手である]と記しました。標準化もマニュアル化も、いずれの場合においても、ルール作りが基礎になるといえます。
3 シンプルで成果の上がるルール
言うまでもなく、ルールを作りさえすればよいのではありません。よいルールを作ることが求められます。よいルールというのは、すべてのことが詳細に決められているというものではなく、適切なステップや指針があって実力が発揮しやすいものと言えそうです。
シンプルで長持ちするものがよくできたルールです。その中でも傑作といえるものが、ディズニーの「SCSE」でしょう。ご存知の方も多いと思います。Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)を意味するものです。
オリエンタルランドのHPにも、SCSEの順番が「そのまま優先順位を表しています」と記されています。突然起こった東日本大震災のあとの対応はすばらしいものでした。多くの人たちから、安全・安心を最優先した迅速な対応が称賛されました。
よくできたルールがあると、実際の行動が違ってきます。そのためには、ステップがシンプルであることが必要です。無駄な決まりを排除することになります。完璧主義を求めるのではなく、これだけを注意してやってくれれば成果が上がるというものです。
成果を上げることが目的ですから、無理な要求も排除する必要があります。ルールが守られなくでは意味がありません。よいルールであるという認識があれば、そのルールは守られるはずです。当然、こうした成果の上がるルールを作ることは簡単でありません。
そのためにもルール作りの練習が必要です。普段から意識してルールを作っていくことが、その第一歩となります。ルールが作れたなら、よいルールかどうかの検証ができます。こうした点からも、ルール作りがマニュアル作りの基礎になると言えそうです。