■文章と文書:部分と全体の関係

1 文書作成の講座

10月と11月に文書作成の講座があります。文書がきちんと作れないということが、ここ数年大きな問題になっています。10月の講座は満員のため定員枠を増やしたようです。とはいえ講義中に演習をしていただくので、もともとの定員を制限した講座でした。

例年、参加する方の会社名をお聞きすると、頭がくらくらしてきます。何でこんな優良企業の人たちが参加するのと思います。そういう会社の人ほど謙虚なことが多いので、個別に状況をお聞きしてみることがあります。毎回、同じ答えが多いのです。

文書作成について、きっちり教わったという記憶がないとおっしゃいます。今回はどうでしょうか。情報交換させていただきたいと思います。文書作成と文章とは大きく関連しています。文章が書けないと、文書の作成は辛いことになります。文章が基礎です。

 

2 文章の理想型?

ちょうどいい素材があります。東洋経済に「学び直し国語力」という特集記事です。Webに掲載されています。元の例文ではなくて修正したあとの文を見てみましょう。修正された後の文章が「理想例」なのだということです。

(理想例)日本の原油輸入は8割以上が長期契約。長期ドバイ原油の平均価格を基準とした契約が多い。

これを見ると、例文を作るのは簡単でないなあ…と痛感します。理想の文とはとても言えません。この文だけを読んでも意味がわかりません。この前後にいろいろな情報が記されていなくてはよくわからないだろうと思います。いくつか疑問を持つはずです。

(1) 何の8割なのだろうか? 原油輸入量なのか、輸入額か?
(2) 長期契約とは何か? 産油国との特別な契約なのか?
(3) 「長期ドバイ原油」の平均価格とは何のことか。どの期間の何の平均なのか?
(4) 「多い」とはどの程度なのか。8割以上という数字と並んでいると気になる。

例文を提示して、その修正をする形式での文章演習がよくあります。上記の「理想例」をビジネス文書で使われたら困りますが、しかし文章の中から1つか2つの文を取り出して修正しても、あまり実際の成果につながりそうにありません。

 

3 文章と文書は部分と全体の関係

大切なことは、文章全体のなかに必要な情報が入っているということです。処理のスピードを速くするために、不要な情報を排除することも大切になります。何が不必要なのかは必ずしもわからないので、やや多めに書くということが現実的かもしれません。

不必要なものを排除して必要なだけ、それで十分になるようにというのが理想形なのでしょう。しかし必要十分というのは現実にはありませんから、重要事項だけはもれなく記す、客観データのところは正確さが要求されると意識することが大切です。

文章と文書との関係の基本は、当たり前すぎるかもしれませんが、文章は部分、文書は全体という関係が成り立っている点にあります。全体として正確に記述しようとしたら、文章を正確に記述して説明を補足していくしかありません。

一つの文で全てを記述しようとすると、混乱します。そこで複数の文を並べます。これが文章です。その並べたものの集合全体で何かを示そうとするのが文書だといえます。そのため、何のために文書を作成するのかという点が問われるのです。

「何のために」というのは、文書作成の目的です。作成者が明確にする責任を持ちます。それを記す形式が組織での問題になります。どういう形式なら読みやすいのかを検討して、それを組織として標準形式にしたら、お互い読み書きがしやすいでしょう。

数年前、読点の打ち方、振り仮名の統一、使用する漢字の制限など、この種のルールを作って共通化を進めようとした組織がたくさんありました。当然失敗しています。こうした従来のアプローチは本質からずれたものでした。こんな話も講義でするつもりです。

 

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