1 東アジアの留学生の学力
今年後半から専門学校で留学生だけのクラスを担当する機会を得ました。専門学校には東アジアの学生がたくさん来ています。もはや彼らなしでは専門学校が成り立たないくらいたくさんの留学生がいます。学科によっては留学生が半数をはるかに超える割合です。
中国人が圧倒的で、韓国、ベトナム、台湾、香港、タイなどからやってきます。一般教養といっても、多くは計算問題を中心に教えています。OJTや教育プログラムをどう作るかという講座をやっていますから、さあどうやったらよいのか、面白い体験です。
講義開始から3カ月ですが、数的理解の分野では、通常の1年分がほぼ終了しました。留学生はやる気があるという人もいますが、ちょっと違います。やる気はもはや日本人とほぼ同じです。ただ明らかに違うことがあります。そのことを指摘しておきたいのです。
彼らを教えていると、日本の学生が学ぶ範囲よりも、広い領域をカバーしていることがわかります。聞いてみると、数学の分野は日本よりも広いとのことでした。3進法などの何進法を学んでいなかったりといったズレもありますが、全体の水準は日本より上です。
留学する人たちですから平均よりも上であることはたしかでしょう。ただ日本の学生を圧倒する基礎学力を持った学生が絶対数で東アジアに億単位でいることは確かなようです。両者がいるクラスでは留学生が日本人に数学を教えるのは普通にある風景です。
これは正確にあとで調べにないといけませんが、おそらくゆとり教育以降、日本の基礎教育の範囲が狭まった影響だろうと思います。「ゆとり」以前の日本のカリキュラムと同じままの東アジアの学生のほうが、基礎学力を身につけているということのようです。
2 日本語の優位性
これから東アジアの学生たちのレベルはどうなるでしょうか。まだわかりませんが、しかし見えていることもあります。ベトナムの場合、漢字圏にありながら漢字を使わない文字が定着しましたから、漢字が苦手です。韓国がこの後追いをすることになるでしょう。
漢字を学んだ学生がわずかになっています。今後、ハングルのみで漢字を学ばなくなります。漢字は日本語を選択する学生が学ぶものになり、それが今では中国語を学ぶ学生しか漢字を知らなくなっているようです。漢字が読める韓国人学生が激減しています。
いま漢字を使っている韓国の学生の中には、よくないことだと言う学生もいますが、もう後戻りできないとも話していました。韓国語は日本語に似ていると学生は言います。日本語がローマ字化されたならどうなるのでしょうか。そんな点も注意したいところです。
仮名と漢字の併用が日本語を優位にしているかもしれません。発音記号のひらがな・カタカナと意味をもつ漢字の組み合わせは便利です。両方あるからこそ、洗練された繊細な表現ができるのではないか。同様の感想をもらす留学生もいますが、結論はまだ出ません。
3 危険な計算力と読み書きの軽視
日本に留学する学生は表情やしぐさまで、かなり日本人に似てきますが、当然、その国の人らしさは消えません。地域それぞれの雰囲気があります。しかしそれを超えた若者の共通性が強くあります。一方的に説明される講義を集中的に聞けないということです。
少し教えたら、教室をぐるぐる回って理解できているかの確認をしなくては、下手をすると習得がゼロのままになります。日本人も留学生も変わりません。わかったかどうか確認する必要があります。個人個人が確認を求められているかどうかがポイントです。
さらに分かった人が友達に教えてあげるように誘導すれば、講義は一気に進みます。教えることが勉強になることは多くの人が指摘するところです。教わるほうも、友達に聞いてもわからないときに教師に聞く方が気が楽ですし、本当に聞きたいことが聞けます。
誰でも、わからなかったことが分かってくれば、顔つきが変わります。日本人も留学生もこの点で違うことはありません。ただ、どんな形であれ一度授業で聞いた記憶がある学生のほうが有利です。少なくとも計算に関して東アジアの留学生が圧倒しています。
計算力と読み書きの軽視は危険です。日本人の読み書きの低下はビジネスにまで影響があります。もはや日本の基礎教育レベルは高くありません。しかし日本人学生でも、数か月で何段階もレベルアップする学生が必ず一定数います。まだ手は打てるはずです。