1 何を共通認識にするか
年度末の忙しい時期に、多数の方が業務マニュアル作成講座を受講くださいました。ありがたいことです。業務マニュアルを作ったことがない人が半数を超えていました。業務マニュアルがどういうものか、わからないから来たという人も毎回いらっしゃいます。
業務マニュアルに記述する内容は、組織で情報を共有すべきものです。何を共有したらよいのか、簡単には決められません。すべてを共有するのは不可能なことですから、何を共通認識にしたらよいのかが問題になります。具体的事項をどう選択するかの問題です。
もし一言で答えるように言われたら、簡単な答えになるかもしれません。成果を上げるために必要なことを情報共有しておくと答えればよいのでしょう。ただ、成果とは利益です…とはいえません。成果とは何かということまで考えておかないといけなくなります。
その会社・組織にとってかくあるべしという会社の価値観の達成が成果ということです。それだからこそ、成果を上げることが満足につながります。組織が全体として満足できる仕事の仕組みを作って、成果を上げるのに必要なことを情報共有するのが原則です。
2 組織から個人に向けて発信する文書
業務マニュアルという文書を定義するとき、一番基礎となる性格は、組織から個人に向けて情報を発信する文書だということになります。報告書や提案書は、担当者から組織に向けて発信する文書です。こうした文書とは性格が異なります。
その組織に属する個人に向けて、組織が「これが仕事のベースになることです」と必要事項を伝えるのが業務マニュアルです。決まりやルールや判断基準、仕事の責任、仕事を進める手順など、種々雑多なものを整理して提示しなくてはなりません。
業務マニュアルを作るためには、組織が業務の全体像を把握する必要があります。これが前提です。その場合、情報はどこにあるかということが問題になります。ハイエクが on the spot の知識という概念を提示しました。これが大切です。
実践的な知識は最前線の現場にあります。組織を統括する人たちのところに必要な情報が集中しているわけではありません。組織の中枢に具体的な、実践的な情報がないのです。発信する側のところに情報はないのに、情報を発信するということになります。
3 業務マニュアル作成の条件
業務マニュアルを作るのが簡単でないということがお分かりになると思います。自分たちの組織の成果がどんなものであるのかを明確にして、それを達成するための仕事の仕組みを作らなくてはなりません。その上、多くの情報は現場にあるということです。
組織側は必要な情報をいかに集めるかということが問われます。これが組織の基礎力になります。ここから成果を上げるために必要な情報を選別して、使いやすい形式にまとめたものが、業務マニュアルです。これで組織のベクトル合わせができるようになります。
では、具体的にどう作っていったらよいのでしょうか。まず作成担当者が問題になります。業務マニュアルをまとめる人は、ほとんどの場合、組織を統括する幹部ではありません。社員のリーダー格の人が実際に作成を担当するのが一般的でしょう。
組織の中枢部にいる人達は、担当者がまとめた文書を確認して、必要に応じて修正し、承認してお墨付きを与えるというのが役割です。したがって、お墨付きを与える人達が、最初に業務マニュアルの方向性、イメージを作成側に伝達しておかなくてはいけません。
作成の担当者がお墨付きを与える人と最初の段階ですり合わせをして、方向性やイメージを共有してから作り始めないと、出来上がったものが想定していたものと違ったものになりがちです。どうしたら齟齬が減るのか、工夫しないとあとで困ったことになります。
これらを一つ一つ確認し対応していくとうまく行くものです。全部の業務をマニュアル化する必要がないことも分かるでしょう。ありがたいことに、実際に成果を上げる業務マニュアルが作れたというご報告もいただいています。作成には条件があるということです。