1 業務の継承のための方法
OJTにマニュアルなど必要ないだろうと思う人がいるかもしれません。従来の日本には長期雇用、濃厚なコミュニケーションがとれる環境にありましたから、OJTが自然にうまく行っていました。ところがそうした職場環境が消えてしまったようです。
1990年に非正社員比率がおよそ20%だったのが、2015年には40%を超えました。もはや職場でじんわりゆっくり仕事の継承がなされるということは無理な状況です。そこにビジネスモデルの変化がやってきました。ビジネスの変化が急速になっています。
OJTだけではなく、積極的に社員教育を行わないと、変化の速い時代に競争力を維持することができません。OJTが上手な人に任せているだけではうまくいかないでしょう。何かの方法が必要なのです。OJT・教育用のマニュアルの必要性がここにあります。
まだOJTや教育のプログラム自体が十分にそろっていません。整備が不十分ですから、マニュアル化もなされていないのが普通です。さらにまずいことに、日本人の場合、マニュアル作成が下手と言われていますから、今後、問題になることは間違いないでしょう。
2 短時間で作れるOJT・教育用マニュアル
受講された方の中には、リスク管理のためのOJT・教育のプログラムをマニュアル化しようとして参加された方がいました。職場の人から、そんなもの無理だと言われながら参加したそうです。ところが受講中の取り組みで、いいマニュアルが出来上がりました。
業務マニュアルを作る場合、数週間では無理です。数か月かかります。操作マニュアルでも、さっと作れるような簡単なものは少なくて、数週間かかるのが普通です。それなりの時間を覚悟しなくてはなりません。ところがOJTのマニュアルなら、すぐにできます。
年単位の教育のプログラムを作って、その教え方まで含めたマニュアルにする場合なら、数日の時間がかかるでしょう。しかし、その程度です。その程度で作れなかったらいい指導などできません。逆の面から言えば、短時間で作れなくてはいけないのです。
OJT・教育用のマニュアルは、他のマニュアルよりも短期間で作れます。他人への聞き取りはありませんし、自分で教える場合を想定して考えていけばよいのですから、一気に構想が立つものです。その人の実力にふさわしいマニュアルを作ればよいのです。
3 OJT・教育用マニュアル作成の重要性
OJTや社員教育といった組織の学習は、会社の経営にかかわります。何を習得してもらうかの選択が重要です。仕事に役立つものが優先されるのは当然ですが、同時に、習得が早くて、負担が少ないのに成果の上がるものを見つけることが重要です。
たったひとつの学習プログラムを実施しただけで、明らかな効果があればよいように思いますが、ところが教育の場合、成果の判断が簡単ではありません。数年単位で見ると、どうしても教育投資の額や学習プログラムの実施の回数が、成果と比例してきます。
まずは組織がプログラムを作って、実施できる能力を持つことが求められます。OJT・教育用のマニュアル作成ができるリーダーを養成することが重要だということです。こうしたマニュアル作りを通じて、リーダーも実力がつきます。ドラッカーも語っています。
▼花形セールスマンの生産性をさらに向上させる最善の道は、セールスマン大会で成功の秘訣を語らせることである。(中略)
看護婦の成果を向上させる最善の道は、新人の看護婦に教えさせることである 『未来企業』
マニュアル化されているなら、OJT・教育がどうなされたのかの検証もできます。これを作ることがそのままマネジメントの勉強になることも大切な点です。今後、OJT・教育用マニュアルが、マニュアルの中でも一番重要なものになるだろうと思います。