1 プロデュースの10段階
堺屋太一は日本一のプロディーサーの一人です。通産省の官僚時代に日本万国博覧会(大阪万博)を提案しました。1970年に開催が実現して、大成功でした。1975~76年の沖縄海洋博も担当しています。プロデューサーとして圧倒的に優秀だったのでしょう。
『夢を実現する力』に堺屋太一は[プロデュース「成功の方程式」]を書いています。40ページ程の分量ですが、プロデュースをマネジメントするときの基本を一番よくまとめたものだと思いました。堺屋はこの文章で「プロデュースの10段階法」を示します。
▼プロデュースの10段階
1. 目的の明確化━━━━全員で共有
2. コンセプトの確立━━事業の全体概念、テーマを混同するな
3. ストーリーを描く━━具体的な全体イメージを語る
4. シンボルを立てる━━全員にコンセプトを知らせる
5. 全体計画を練る━━━規模、日程、行事イメージ、主要施設
6. 基本構想を描く━━━組織構想、予算構想、配置構想、マスタースケジュール(工程表)
7. 基本計画をつくる━━各分野専門家の仕事
8. 総合調整を図る━━━成功可能性の高い最終形を見出す
9. 基本設計を書く━━━全体設計、建物設計、運営設計、展示設計
10.実施設計━━━━━━専門技術者が多数参加
(『夢を実現する力』p.30:番号を付加)
堺屋はプロデュースの方法を、石田三成から学んだそうです。関ヶ原の戦いを企画したのが石田三成だとのこと。大義名分を掲げ、宇喜多秀家をスポンサーにして宣伝をして、たくさんの人を集めました。万博のとき[私もその通りにやりました]と記しています。
2 プロデューサーに求められる一番の能力
一番目は目的の明確化です。大阪万博なら、先進国となった「近代工業国家日本」を世界に示す文化産業行事でした。目的は複数あるものですが、最大・最終の目的を決めることが大切です。[主要な関係者の間で合意がないことには絶対うまくいきません]。
二番目はコンセプトを作ること。[「目的」は理念、「コンセプト」は概念です]。沖縄海洋博の場合、目的は沖縄の人口を減らさないこと、だから「沖縄の観光客を10倍にしよう」というのが目的でした。コンセプトは「海洋リゾート沖縄」です。
コンセプトとテーマは違います。沖縄海洋博のテーマは「海-その望ましい未来」だったそうです。テーマは「みなさまのNHK」といった[キャッチフレーズであり]、[キャッチフレーズからは具体的なものにつながりません]。コンセプトが大事なのです。
三番目に[目的とコンセプトにあわせて、納得できるようなストーリーを書かなくてはなりません]。この能力が[プロデューサーの最大の能力]になります。イメージの提示ではなくて、そのイメージがストーリーのどの場面に入るのかという発想になります。
たとえば日本の都市計画は[配置設計、基本計画から入]りがちですが、本来[十年後、二十年後にどんな町にするのか]という[コンセプトとストーリーから入る]べきです。そのためにも、このストーリーを読んでもらうことが必要になります。
3 プロジェクトを黒字にすることの意義
「目的を明確にして、コンセプトを作り、それをストーリーにしていく」、ここまではプロジェクトの基本の話です。しかし、なかなかプロジェクトのストーリーなど読んでくれません。堺屋はストーリーを読み聞きしてもらうために、ひと工夫した段階を考えます。
四番目はシンボルを打ち立てることです。シンボルを定めて、それにふさわしいものを考えてほしい…と促すなら[ストーリーの話も聞いてくれます]。大阪万博で[巨大なお祭り広場]を作ったら、「何でそれがあるんだ」とストーリーの話になったとのことです。
五番目の段階では、全体計画を練って、[大体の規模、開催の日時、行われる行事と主要施設のイメージ]などを決めていきます。[間尺に合った全体計画、規模と内容]にすることが重要です。黒字にならないプロジェクトに、いい人は集まりません。
だから[全体計画をつくるにはお金を絞らないといけません。これはプロジェクトを黒字にするために絶対に必要なことです]。堺屋太一は強調します、[大衆の支持がなければ文化にならない。「文化は赤字」は大間違い。必ず黒字にしなければならない]。
☆この項、続きます。⇒[堺屋太一のプロデュース「成功の方程式」 2/2]