1 無理は続かないという原則
今年の夏の高温は、あちこち動きまわる人たちに思いのほか影響を与えているように思います。何人かの方々と先日お会いしたとき、夏休みの成果の話が出ました。皆さん、今年は明らかに効率が悪いと言うのです。いろいろ失敗をしたというお話でした。
障碍者の会に10年ほどいて、会員の体調管理に関わったり、リハビリの様子を見てきましたから、この暑さでは仕方ないなとも思います。障碍のある方の上手な体調管理を見ていると、さすがだと思うことがしばしばありました。あそこまで、なかなか出来ません。
体調管理がうまい人は、無理をすると反動が出るということをよく知っています。たしかに無理なことは続きません。いくら気持ちがあっても、無理をして一時的にうまくいっても、どうしても、どこかで効率が落ちてきたり、質が悪いものになってきます。
業務をどう構築するかを考える場合でも、いつも「無理をしないで成果を上げる仕組みを、どう作るか」という点が問題になります。無理のある仕組みを作れば、継続して実行することができませんから、別な方法で実行することになるのは仕方ありません。
やれないことを、やれる前提にすることは、害があるのみです。こんなことはわかっていることでしょう。ところが、やる気のある人が、もっと成果をあげようとして、少しだけ無理をしようとしがちなのです。それが組織に疲労を蓄積させることになります。
2 均一でなくなっている日本の若者
業務の場合、各人の修正によって、何とか業務が回っていくのが普通です。本来の業務のルールが、各人の工夫で立派なものになっているケースさえあります。その場合、属人化のリスクはありますが、メンバーが大きく変わらなければ、何とかなるものです。
しかし社内教育の場合、成果が上がらなくても、教育の方法が見直されないままに継続されるケースがしばしばみられます。このことを心配して、どうしたらよいか…という相談がよくありました。学生の就職状況がよくなるにつれ、増加してきたように思います。
優良企業のエリートだけを見ているとわかりにくいのかもしれませんが、平均すると、入社する学生の基礎知識のレベルが低下していることは確かなようです。学生の成績と内定する会社の関係を見てみると、基礎学力の低下は否定できそうにありません。
では、学生の潜在的な能力は低下しているのでしょうか。むしろ上がっているのかもしれないのです。たとえばアルバイト先で、とてつもない成果を上げる学生が毎年何人か出てきます。成績はおおむね優秀ですが、飛び抜けているわけではありません。
ここ数年学生を見てきて、やっとわかったことは、日本人の若者が均一でなくなってきているということでした。多様性があるということです。当たり前だと思うかもしれません。それならば、それに合わせた教育方法をとっているのでしょうか。
企業の教育よりも、もっと単純に就職向けの筆記試験を見てみれば、痛いほどわかることがあります。学校の場合、企業よりももっと変化がのんびりしているのです。危機感もあまりありません。いいサンプルにお目にかかれるチャンスがあります。
3 1年生のときがピークの基礎知識
一昨年、昨年と3つの学科の筆記の講義を行いました。ピンチヒッターが必要となって依頼が来たのです。いいケーススタディになると思って担当することにしました。2つの学科では、前年の先生の教え方が生徒に反映されています。これが興味深い点でした。
「生真面目」な先生が、テキストの問題をすべてきっちり板書しながら、解説をしていったケースがその一つです。生徒の理解度には興味がなかったらしく、引継ぎ時に自分の講義についてこなかった生徒を罵倒していました。生徒の半分が単位を落としています。
もう一人の先生は、やる気のある人がやってくれればいいのだと、やる気のある生徒の進捗に合わせて講義を進めていました。テキストを全部終える気持ちはなかったようです。この学科の試験問題は工夫されていましたので、単位を落とす生徒は少数でした。
前者は通用しない方法を律儀に適応して、生徒からダメを出された典型的な失敗例です。後者の場合、平均的な学生から成績が全く上がらなかったとの声があがりました。できる生徒はもともと出来ていたことをなぞっただけですから、成績は上がっていません。
一般教養や基礎知識の場合、しばしば1年生のときがピークで、その後、学年が上がるにつれて低下するとも言われます。これは教え方にも問題があります。進度も理解の仕方も違う生徒に均一な教え方をしても、やはり無理があるのです。成果が上がりません。
もうお分かりだと思いますが、社内教育もこれとそんなに違わないところがあるということです。実際、相談に来た方にお聞きすると、一方的にプログラムにそって教えていたり、出来る人のペースでやれるところまでやる方法が普通に採用されています。
筆記試験対策の場合、成績が数字に表れます。1年生のときがピークと言うのは残念です。しかし、ちょっとした工夫があれば大きく状況は変わります。実際、最初から担当した学科の1年後の成績は、引継いだ学科の当初の成績より、15%以上高くなりました。
⇒この項、つづきます。[無理をしないで成果を上げる:社内教育の方法 その2]