1 梅棹の方法:1969年
梅棹忠夫の『知的生産の技術』が出版されたのは1969年でした。この本をご存じない方も多いでしょう。思いついたことをカードに書いておいて、それを組合わせることで知的生産が効率化されると説いた本でした。知的活動に関する代表的な著作といえます。
ノートを作る代わりに、カードに書いて記録する方法は斬新でした。梅棹のものは、B6のサイズに罫線を印刷したカードです。京大式カードという名前もついて、いまも市販されています。この本に影響を受けて、たくさんのカードを購入した人がいました。
思いつきの断片を記録しておき、それを組合わせることで、いい考えが生まれるという発想はいまだに滅びていません。しかし、実際にカードを作り出してみると、なかなか思ったようにいかないのが普通です。思ったよりも高度な使い方が要求されます。
2 カードと「こざね法」
梅棹はカードを分類しないで、その都度、新たな組み合わせをするように…と提唱しました。これが簡単にいかない原因にもなっています。組み合わせるカードが少ないと、あまり役に立ちません。多すぎれば、その中からどう選んでいいのかわからなくなります。
興味のある分野を持つ人や、試験を受ける人にとって、利用できる方法でした。何度も使う重要事項をカードにしておいて、必要に応じて見返すことは役立ちます。梅棹の意図とは違いますが、よくわかっている分野に限定することが成功の秘訣ともいえました。
カードから文章にまとめていくときには、「こざね法」という方法が示されています。関係ありそうなカードを選び出し、そのカードの内容を小さな紙片(こざね)に短文で書きだして、並べていきます。それを補強して文章にまとめていくという方法です。
カードの内容から連想を働かせて、あらたな思いつきを補強していくことが「こざね法」のポイントになります。連想を働かせる基礎をカードに記録しておこうということです。新たにこざねに書く手間はかかりますが、発想としてはいまも有効なものでしょう。
3 ヤングの方法:1940年
ジェームス W.ヤングの『アイデアのつくり方』によると、アイデアというのは、素材の新しい組み合わせだということになります。カード化して素材を集めておく方法も、素材を組み合わせる「こざね法」も新しい組合せを見出す方法といえそうです。
ヤングの本は、1940年に書かれたとのこと。この本でヤングもカードを使った方法を記しています。様々な分野から、自分の関心ある領域に関わる内容を見つけたら、カードに記しておく方法です。ヤングの場合、分類して整理しておく方法をとっています。
おそらく多くの人が、ヤングの方法をとるだろうと思います。自分の関心領域を絞って、そこに関係するものを集めていく。それを使いやすいように、自分流に整理・分類しておくことになります。論文を書こうというとき、おそらくこの方法になるはずです。
何かをまとめる場合、領域を絞っておくことが集中力を生みます。梅棹の方法がうまくいかないのは、たいていの人が何となくカードを集めていたからでしょう。目的が明確でないと、なかなかいい情報が集まらないものです。梅棹の方法は高度な方法でした。
梅棹は業績を上げた学者です。そろそろ梅棹の方法が使える仕組みを考えたいものです。どの分野に使えるかわからないけれども、これは重要なことだと思うものを、蓄積しておき、何かのときに使えるようにする仕組みが必要です。その環境は整備されています。
⇒この項、続きます。