1 参考になるPISAのスコア
今期の留学生への講義がすべて終わりました。昨年度から、留学生だけのクラスも担当しています。それまではクラスに何人かいる留学生を通じて、各国の様子を聞いたり、学生を通じて国民性を感じ取っていました。ここ2年で印象の確認ができた気がします。
日本の教育水準が高いのか低いのか、東アジアの国々との比較で語られることがあります。この点、OECDのPISA(学習到達度に関する調査)の結果がかなり正しいという印象を受けました。高くも低くもなくてほぼ同じということです。残念な気もします。
PISAとは Programme for International Student Assessment であり、2000年に始まり、公開されている最新データは2015年のものです。OECDが15歳の学生の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野の学力を、3年ごとに調査しています。
読解力と数学的リテラシーに関していえば、15歳のときの基礎学力が20歳過ぎでも変わらないようです。専門学校に来る留学生は20代前半の東アジアからの留学生がほとんどです。日本人の学生との違いを基礎学習に絞ってみて考えてみたいと思います。
2 2番手グループにおちた日本人学生
日本の教育制度が東アジアの基礎になっているのは間違いないでしょう。韓国の留学生が日本のコピーですよと言うようにほぼ同じです。台湾も同様ですし、中国でもほとんど変わりません。ただ、これらの国は日本のゆとり教育の制度を受け入れていません。
2015年のPISAテストでは、読解力と数学的リテラシーの1位がシンガポール、2位が香港です。2か国より若干点数が低いものの、PISAの調査対象の中でも、東アジアの国の成績は上位を占めています。教えていても各国の基礎教育の充実ぶりを感じます。
ゆとり教育のおかげで学校に拘束される時間が減って、様々な分野で活躍する若者が出てきましたが、導入によって基礎学力が低下したことは否定しようがありません。PISAのスコアも急落しました。日本のレベル低下で東アジア各国と同一レベルになったのです。
日本はもはやトップグループではなく、2番手グループになってしまいました。今まで以上に基礎教育を充実させて、もう一度トップに立ってもらいたいと願っています。もしかしたら少子化がチャンスになるかもしれません。きめ細かな対応が期待されます。
3 日本人の読解に大きな弱点
計算中心のSPIの問題で見ると、日本人も留学生も差がありません。違いがあるとしたら、日本人はわかった問題でも反復することを嫌がりませんが、台湾以外の留学生たちは反復を嫌がります。もうわかったと言って反復しません。これは留学生の弱点です。
読解力の場合、PISAの結果でも日本と韓国がやや点数が上になっていますし、実際その通りかもしれません。台湾・中国の学生は会話に強く、読解がやや弱い傾向があります。しかし日本人学生の読解力の低下傾向は止まっていませんから、先行きが心配です。
専門学校へくる留学生の日本語能力がそんなに高いはずはありませんが、日本語の基本的な読解問題であっても、成績上位の留学生の場合、日本人学生の平均レベルを上回っています。彼らは感覚に頼りきれませんから、きちんと理屈に基づいて読んでいるのです。
日本人学生は論理の読み取り能力がきわめて弱く、言葉を理屈で読む練習が抜け落ちています。計算問題のミスの場合でも、問題文を誤読している例がかなりあります。分析する道具なしに感覚だけで文章を読む人が多すぎるのです。大きな弱点があるといえます。
もう一つつけ加えるべきことは、ベトナム人留学生の急増とその能力の高さです。2015年のPISAのスコアでは、東アジアの国よりもかなり下にいますが、急速に力をつけています。10年以内に肩を並べてくるでしょう。圧倒的に伸びている注目すべき国です。