■小西甚一『日本文藝史』Ⅱ:傑作と評価された作品

    

1 20世紀を代表する名著

小西甚一の『日本文藝史』を読んでいます。いま2巻目を読み終えたところです。1985年から92年までに5冊が刊行されました。20世紀を代表する名著の一つでしょう。2巻目は、索引年表で言えば[751年『懐風藻』序成る]から[1241年藤原定家没]までです。

わかったところだけでも、すごい本だと感じます。例えば、日本語の詩歌について。日本語の性質からしても、[表現に「切れ」がないとき、いちばん無理の少ない、安定した感じを与える]はずです。ところが12世紀以降、[表現の「切れ」が出てき]ました。

これは[かなり非日本的な表現の仕方で]す。[「表出する心」を「表出される心」と別扱いにする態度]だと言えます。それまでなかった表現が[シナ的な表現態度との接触によって引き起こされた可能性は大きい]と小西は指摘していました(pp..118-119)。

       

2 小西が高く評価した作品

もう少し具体的なほうがわかりやすいかもしれません。小西は、どんな作品を高く評価しているのでしょうか。[仮名による文藝の最高傑作『源氏物語』](p.162)と言い、それに先立つ『伊勢物語』について[現代人にとっても感動的](p.408)と評価しました。

[『枕冊子』ぜんたいを日記とみることは、すこしもさしつかえがない](p.431)と言い、[和文作品の傑作のひとつ](p.301)と記します。また、それまでの仮構日記に比べて[あらゆる点で格段の差を見せる『和泉式部日記』](p.340)を高く評価しました。

13世紀以降でいえば、[和歌のいちばん美しい世界が『新古今和歌集』]であり、[『平家物語』や『徒然草』あるいは世阿弥たちによる能の詞章など、日本文藝における第一級の作品が和漢混淆文で生み出された](p.150)とあります。これらが傑作とされました。

      

3 異分野の圧倒的な学者の仕事

小西は[初期の和文作品として年代がいちおう明らかなのは『土佐日記』だけれど、現存する『竹取物語』や『伊勢物語』のテクストも、たぶん近い時期の成立であろう]とします(p.168)。[文体が基本的に『土佐日記』と共通するからである](p.169)とのこと。

したがって『伊勢物語』は935年前後の成立とみられます。世阿弥が出家したのが1422年ですから、およそ500年間の主要作品が上記のものになります。『源氏』はさすがに長くて大変ですが、その他は現代語訳でなら、そう苦労なく読めるものです。

専門家でなくても、これだけの本だと読む価値はあるのでしょう。10年に1度くらいのペースで、読み返してきました。当然、読み落としや、忘れた箇所もあります。今回、漱石の『猫』についてのコメントが2巻にあったのを思い出しました(p.319/p.322)。

まだ2巻目ですから、読み終えるのは相当先になりそうです。ゆっくり読みながら、小西の読み取り方と解釈の仕方、分析や評価の仕方を学んでいけたらと思います。楽しみながら読めるのがありがたいことです。異分野の圧倒的な学者の仕事は刺激になります。

     

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