■目的と原理の違いについて:篠田英朗『ほんとうの憲法』から

    

1 原理の概念が不明確

目的と原理の概念について、ときどき間違うことがあります。「目的は何か」を問うことはマネジメントの基本です。仕事の基本ともいえます。一方、原理と言うのは、規則の基本です。理科系の学問で実験レポートを書いた方ならわかっているでしょう。

しかしビジネスや文科系の学問では、原理の概念を明確にしない傾向があります。原理とは「根本的な規則」です。しかしこれだけでは、概念自体が厳格に定義されたとはいえません。その結果、多義的な使われ方になりがちです。それが混乱をもたらします。

この目的と原理について、篠田英朗が『ほんとうの憲法』で言及していました。日本国憲法の教科書で、「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」を「三大原理」としているのは、おかしいと指摘しています。原理ではなくて、目的ではないかと言うのです。

      

2 「原理」と「目的」

篠田は、法律における原理と目的を明確に定義しています。[原理というのは、法体系の仕組みを言い表す一般性の高い原則的な規則のこと]であり、[「目的」は、より具体的で、特定の法律が目指す政策的な方向性を指し示す](p.24)と言うのです。

【原理】とは「その法律が依拠している考え方の体系」であり「静的なもの」ですから、[秩序観であり、世界観である]と言えます。「一般性の高い原則的な規則」についての「考え方の体系」「体系の仕組み」です。ブレない「根本規則」といえます。

【目的】とは「政策的な方向性」を示す「より動的」な概念です。法律解釈の際に、目的達成に適った解釈がなされることが求められます。つまりは[目的を明らかにした趣旨説明が]解釈の指針になるということです。目的が方向性を示すことになります。

      

3 日本国憲法の原理

それでは日本国憲法の原理とはどうなるでしょうか。篠田は、[今までの日本の憲法学の伝統を一度忘れて、素朴に「前文」を読めば、「根本原理」は三つでなく、むしろ一つであると言わざるを得ないように思われる](p.25)と記しています。それが以下です。

▼そもそも国政(Government)は、国民の厳粛な信託(trust)によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理(principle)であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。

以上が[日本国憲法が自ら「人類普遍の原理」として表明している一大原理]であり、[このように明晰に示されている「原理」は、他にない]のです。したがって、ただ一つの原理とは[「国政は国民の厳粛な信託による」ということ](p.25)になります。

「信託」とは[政府と人民が「契約」関係にあることを示す概念](p.27)であり、英米思想に基づくものです。「諸国民との協和」「自由の恵沢の確保」「戦争の回避」が憲法の目的になっていると、篠田は指摘しています(p.24)。妥当な見解と言うべきでしょう。

      

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