1 1648年のウエストファリア条約の意義
岡崎久彦の代表作を一冊選ぶというのは無謀なことかもしれません。あくまで好みでの選択になりますが、『二十一世紀をいかに生き抜くか』を候補に挙げておきたいと思います。2012年に出版されたものです。岡崎は2014年に亡くなっています。
この本は、キッシンジャーの『外交』をテキストにして、12回の講義をしたものをまとめたものです。講義の場合、書き下ろしと違って、かすかな傷はあります。しかし規範を定立し、それを当てはめて分析し、自説を提示している部分が見事です。
岡崎は冒頭で、1648年のウエストファリア条約により国際政治が近代に入った点を指摘します。キッシンジャーも同様の考えです。宗教戦争が終わり、各国が国益増進を図って競い合う時代に入りました。そのころ日本は鎖国に入り、欧米が世界の主流になります。
2 経済発展の予測より大切なこと
[二十世紀に入るころから、米国が登場](p.25)してきました。20世紀末になると、ロシアに[自由民主主義の道を歩むと期待](p.27)するのが困難になります。21世紀に入り、[中央集権的政府と特権官僚の支配](p.28)する国であることが明確になったのです。
キッシンジャーは1988年、翌年、東欧が大騒動になることを予測していました。1989年には天安門事件も起きています。[天安門事件と東欧の崩壊の背後には、こうしたソ連の弱体化による世界共産主義運動の凋落という共通の原因があった](pp..30-31)のです。
しかし[その後遺症は、中国では、東欧の正反対]であり[愛国主義運動は徹底的に行われ、しかも成功している](p.31)。この時、大切なのは経済発展の予測でなく、[一党独裁のもとの中国の成長がこのまま続き]日本の脅威になる場合に備えることです(p.33)。
3 チャイナ包囲網の形成を予測
ジョージ・ケナンは[権力闘争の競争者たちは、支持者を得るために政治的に未熟な大衆のところまで降りて来る]可能性があるが、[共産党員は鉄の規律と服従によって支配されてきた]から、[共産党がその統一性と有効性を](p.170)失うと予測していました。
キッシンジャーが冷戦の終結について[これほど正確に予言した文書はほかにない](p.170)と絶賛するのに対し、岡崎は、ケナンの[アメリカとソ連のどちらが価値のある国か、その競争をしよう。それに勝てばよい](p.171)という主張のほうを重視します。
ソ連は崩壊しました。チャイナはどうでしょうか。共産主義体制である点は[考慮に入れなくてよくなっている](p.184)。守ろうとしているのは[党官僚支配の中央集権国家]という[中国四千年の歴史のほとんど100%を支配していた政治体制]です(p.185)。
こうした体制は[他国、他民族の脅威とはなっても、憧憬の的になりえない体制](p.185)なので、もはや冷戦にはなりません。17世紀末から18世紀初めの[ルイ十四世包囲網の時代]が来るということです(p.186)。約10年前、岡崎はこう予測していました。