1 正統派でわかりやすい論文の本
国際政治史の斉藤孝は、『学術論文の技法』を1977年(改訂版1988年)に書いています。はしがきに[この小さい書物]とあるように、本文は160ページ程度の本です。初めは大学院生向けのメモだったようですが、それが発展して本になりました。
学生の論文を審査するうち、[論文のルールというものについて私なりの理解が出来上がってきた]とのことです。1973年にエディタースクール夏期講座で「論文の書き方」の話をしたものが基になっているためか、わかりやすい文章で書かれています。
しかし内容はきわめて正統派のものです。その方が、かえって我々の参考になります。論文とは[自分の研究で得た結果を報告し自分の意見を述べたものであり、それによってその学問分野に新知見をもたらすものである]との八杉隆一の定義を引用しています。
2 研究論文と言える条件
八杉の定義をさらに具体的に理解するために、斉藤は反対側から説明することになりました。オードリー・ロスの本(Audrye J.roth,The Research Paper,1966)から借用した[研究論文といえない]ものがどんなものであるか、5項目で示しています(pp..7-9)。
▼研究論文と言えないのは次のようなものであります。
(1) 一冊の書物や、一篇の論文を要約したものは研究論文ではない
(2) 他人の説を無批判に繰り返したものは研究論文ではない
(3) 引用を並べただけでは研究論文ではない
(4) 証拠立てられない私見だけでは論文にならない
(5) 他人の業績を無断で使ったものは剽窃であって研究論文ではない
[学術論文とは、自分の研究の結果を論理的な形で表現するもの]であって、文章では[なるべく修飾語を使わないことが論理的表現のための出発点]、[形容詞或いは修飾語を除いた形で文章を組み立てるという所から始めなければなりません](pp..9-10)。
3 王道を行く論文作成過程
斉藤は実際の経験から、[ある程度研究を進めてみて初めて設定すべきテーマがわかるという場合が多い](p.22)と記します。さらに論文の作成でも、[研究しながらテーマを次々絞っていき、しかもこの間に文章化がすすめられる過程](p.25)が続くのです。
[テーマの決定とは、一度だけの決定ではなく、絶えざる修正と絶えざる改定という試行錯誤の連続なのです](p.25)。そうなると論文の構成も同様のことが起こるのが自然でしょう。[構成プランは絶えず修正を加えられることになります](p.51)とあります。
次第に詰められていくということです。その中でも不可欠なことがあります。[何が問題であり、何が結論であるかを明確に書かなくてはなりません。つまり骨組みがなければならないのです](p.53)。このように論文を作成し、つづいて自己検証をしていきます。
①概念の使用が一貫しているか。②原因の推理に不合理な点はないか。③推定に推定を重ねた形跡はないか。④論理の進め方に無理はないか。⑤結論は既知の関連事象と適合的か。以上が太田秀通の[合理性の吟味の基準](p.68)です。まさに王道でしょう。
★上記は1988年版を基にしています。2005年に、この本の新装版が出ていました。