■ビジネス人が古代史の本を読む意味

     

1 わからない領域に切り込んでいく手法

いままで何回か歴史の本について言及しました。数年前のことですが、ビジネス人が歴史を読む必要があるのか、どんな意味があるのかと聞かれたことがあります。そのころ、雑誌か何かで、歴史を読む意義を何人かの人が書いていらしたようです。

そのとき思いつきを答えたのですが、ああ、それなら納得できますと言われたので、書いておきます。歴史というのは、事実であることを前提としなくてはならないのですが、じつのところ、事実であることが確実な話ばかりではありません。

そうなると、どうやって「確からしい」と考えたらよいのか、その判断基準が大切になります。とくに資料や物証の少ない古代史の領域では、どうやって実体を推定して、歴史を構築するかが勝負どころです。わからない領域に、切り込んでいくことになります。

      

2 刺激になる切れ味の良い論証

ビジネスでも、この先がわからないことがしばしばです。わからないときに、わからないからお手上げだというのでは、責任が果たせません。不十分な材料しかなくても、そこからかなり正しい判断が出来ることが、しばしば言われています。

こうしたビジネスでの判断の仕方は、それぞれの人が経験を活かしたり、知識を活かして、その人なりの方法を用いるのでしょう。この時、全く根拠のないカンに頼るよりも、何らかの確からしさを見出して、それを基に推定していく方が実際的でしょう。

例えば日本古代の出来事について、確定資料がない場合に、どうやって実態を推定していくのか、その論証の仕方が歴史を書く人の実力だろうと思います。切れ味の良い論証をじっくり読むならば、ビジネスについて考えるときに、どこかで刺激になるはずです。

      

3 歴史の本は思考の訓練に不可欠

私がそのとき話したのは、以上のようなことだったと思います。基本的な考えは、あまり変わりがありませんので、だいたいこんなところでしょう。相手の人は、歴史小説を読んでいたようですが、あまり学者の書いた歴史の本を読んでこなかったようでした。

それだと歴史小説よりも、すぐれた学者の優れた歴史書の方が役立ちますね…という反応でした。役立つかどうかは微妙ですが、歴史小説よりも面白いかもしれませんと答えた気がします。しかし読み方の問題もありますし、このあたりは好みの問題でしょう。

専門家の専門領域の論文の場合、とても読めるレベルにはありませんが、学者が一般向けに書いた本の中には素晴らしい本があります。1冊だけあげるなら宮崎市定『古代大和朝廷』です。この本を理解しようとしたら、読むべき本がいくつか出てきます。

『古事記』はひとまず読んでみないといけないでしょうし、『日本書紀』の必要部分も必要です。手間はかかりますが、このくらいすると宮崎の言うところがかなり理解できるようになります。飛び抜けた歴史の本は思考の訓練に不可欠だと思うのです。

      

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