■インドの将来について:藤原正彦の懸念

       

1 「インドの危険な曲がり角」

もしかしたら日本のGDPが2023年度にドイツに追い越されるかもしれないとの報道がありました。ドイツばかりか、数年したら、インドにも追い越されるでしょうという人もいます。インドは世界最大の人口国になりましたから、注目される国です。

特許件数の変化を見ていると、韓国が増え、中国が増えてきました。その次、今度はインドが成長するという人がたくさんいます。そうかもしれません。しかし藤原正彦は『管見妄語 知れば知るほど』で、インドの将来について一筆書きで懸念を示しています。

天才数学者のラマヌジャンを生んだインドのファンである藤原は、「インドの危険な曲がり角」を『週刊新潮』2016年2月18日号に投稿しました。このコラムを[高貴を失ったインドは中国のような野卑な大国になりかねない](p.104)と締めくくっています。

      

2 インド人のIT躍進:3つの原因

藤原は[インド人が今、世界のITや金融を席捲している]点を十分承知しているのです。[シリコンバレーにある企業群では、CEOの三割、働く人の六割がインド人と言われている](p.102)と書き、[IT躍進の原因は大きく三つある]と記します。

第一に[道路や鉄道、電力、上下水道などインフラが未整備で工業生産が難しい]状況で、発展には[IT産業しか選択肢がない]こと。第二に[カースト制]。今でも[世襲的に固定された職業に就くことが多い]ため。第三に[インド人のたくましさ]です。

集中すべき産業はIT、そして[IT技術者は新しい職種でありどのカーストにも属さない]ということになると、人々はIT産業に殺到し、優秀な人は抜きんでます。[自らに有利な意見を臆せず主張して譲らない]のも有利に働いたようです(以上、p.103)。

      

3 大天才を生んできた土壌の崩壊

こうしたITや金融界での成功があるにもかかわらず、藤原はインドに対して悲観的な見方をします。インドは20世紀になっても[ラマヌジャン、詩人のタゴール、物理学のラマン、天文学のチャンドラセカールなどキラ星のごとく天才を輩出してきた]のです。

これらの天才たちは、[彼らのほとんどは、貧しくとも精神性を重んずるバラモンだった]とのこと。しかし[最近はバラモンが大半を占めるIITの学生たちまでが、ITとか金融で大金持ちになることばかり考えているという]指摘があるのです。

藤原は[金銭にはしゃぐインドに、もはやかつての、大天才を生んできた土壌はない]と厳しく指摘しています。実際、[最近のインドの科学、技術、文化、芸術が停滞しているように見える]のです(以上、p104)。どうも、その後も変わりない気がします。

インドはカナダとの関係を悪化させました。これは尾を引くことでしょう。嫌な予感がするときに、昔読んだ藤原のコラムを思い出しました。識字率が改善しているインドは、今後、経済成長することでしょう。しかし、楽観的なばかりではいられないのです。

      

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