■現実を把握するためのアプローチ:文法構築の基本

     

1 「目標と手段」と「目的と手段」

前回、民法についての一筆書きを、池田真朗『民法への招待』で見てみました。池田は、民法と経済原論を比較して、規範意識の有無を指摘しています。経済原論のような「科学」を目指す学問領域の場合、かくあるべしという規範がないのです。

科学の場合、客観性が不可欠ですから、目指すべきゴールは定量化され得るものになります。目標と手段が問われるということです。民法の場合、[現実の法律関係を把握すること]が前提になっています。このとき、かくあるべしという規範が必要です。

池田が制度趣旨にさかのぼるように言うのも、本来の制度がどんな目的によっているのかを確認するようにということになります。民法の場合、目指すべきゴールは定量的に示されません。目的と手段が問われるのです。目的は定性的に示されることになります。

      

2 シミュレーションと定性的ルールの構築

科学的であろうとするアプローチと、現実の把握からルールを作り、ルールに基づいて現実を把握するアプローチでは、ゴールが違うということです。経済原論は科学を目指して定量化が可能な「仮想現実のシミュレーション」を行っていることになります。

日本語の文法について、文法を科学的なものにしようとアプローチするのは無理なことです。定量化する方向ではなくて、定性的にルールを示すしかありません。現実に合ったルールと、ルールで現実を見るというアプローチが適合することになります。

こうしたアプローチには規範意識が含まれることになるでしょう。[当事者の意思に任せるといっても、反社会的なルールの形成は許されない]という池田の言葉は、規範を考えるときに、いい問いかけになります。「社会的」をどう解釈するかが問題です。

     

3 文章における「社会的」規範

文章に内在するルールを発見し、そのルールを使って文章を分析するというときに、どんなルールにすればよいのでしょうか。池田は[当事者の意思によるルール作りを最優先し、それが明らかでない場合に民法のルールを用いる]と書いていました。

文章を書く側がどんな意図を持っていたのか、どう伝えようとしていたのかが最優先されます。同時に、それを読む側が、どう読んでいるのかという現実も最優先事項となるはずです。当事者の意思とは、伝えようとする意思とその受け取られ方の現実になります。

ここでのルールは、言いたいことが伝わるようにということです。個人の意思とは別に、社会的に推奨される伝達ルールがあるということです。そうなると、文章が書かれる目的を考えなくてはなりません。その目的から伝達ルールが生まれることになります。

学術やビジネス用の文章には、文章全般での目的よりも絞り込まれた目的があるはずです。簡潔に的確に正確・精緻に伝えることが「社会的」な規範となるでしょう。文法を作る場合、どの領域の文章を対象にしてルールを作るかが問われるということになります。

      

民法への招待〔第6版〕

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