1 ドラッカーという傍観者
経営学者と呼ばれる人たちの中に、ドラッカーは入らないというのが一般的な見方でしょう。それは妥当なことだと思います。もしドラッカーが経営学者だとしたら、弱点がありすぎです。ドラッカーに経営してもらいたいという経営者など、いるとは思えません。
ドラッカー自身、自分を傍観者と呼んでいました。あるいは自分は社会生態学者であるという言い方もしていましたが、しかしこちらは、なんだかふさわしくない気がします。ドラッカーの場合、「実践しない人」という存在でなくてはならないように思うのです。
成果にコミットしないで、ある種の無責任な立場にいられるからこそ、自由勝手なことが言えます。そういう立場にいるモノの見える人が言うことは、ヒントになるのでしょう。自分で考えることが前提の話ですから、指示や指導でなく、参考にすべき事柄です。
2 ヒントだけを与える立場
ドラッカーが自分を規定して、傍観者であるとしたことは、そのまま経営学者ではないということにもなります。成果にコミットしないということは、責任は実践者にあるということです。考えるヒントを与える立場で文章を書いてきたということになります。
ずいぶん難しい立場で、文章を書いてきたと言えるでしょう。それでも実際に役立ったという人が継続的にいました。どう役立っのかと言えば、何かをするときのヒントが得られたということになります。経営思想を語ることで、実践者が考えるということです。
ドラッカーが示したコンセプトに「顧客の創造」があります。企業の目的は顧客を作り出すことであると記していました。実際によく行われているのは、すでにできている顧客名簿にそって、その顧客のニーズを満たすことです。ややニュアンスが違います。
3 まずは一人で読むべき本
経営の実践者は、単に顧客名簿に沿って顧客ニーズを満たしているだけではない主張するでしょう。顧客は変わっていき、ニーズも変わっていきます。いったん獲得した顧客であっても再契約してもらっていることによって、維持が出来ているということです。
ニーズを満たすために、提供するサービスやモノを変えていくことは、よくなされています。顧客名簿にある顧客は、今後ずっと継続される固定された対象者ではなくて、新たに顧客になりたいという意識・作用を生み出さない限り失われる対象者だということです。
ドラッカーはこうしたことに気づきを与えてくれます。ただし、これらを教科書的に丁寧に記述してくれるわけではありません。読む人を選んでいます。経営する人たちは、フレームよりももっとベーシックなことを考えるために、ドラッカーを読んでいるはずです。
「手取り足取りはダメです、自分で考えないと成果が上がりませんよ」という話は、仕事の仕組みづくりでも同様の原則です。ドラッカーを自分流に読んで、外れないようにするには、実践経験が不可欠でしょう。まずは一人で対峙すべき本だと思います。