■ビジネスでも使える全体最適の方法:宮崎市定の「文献学的方法」

      

1 論争で黒白をつけた方法

論争というものは、必ずしも生産的ではありません。それによって成果を上げるのは、相当難しいという印象があります。宮﨑市定も[立派な論争もあると同時に][鼻持ちならぬ醜論争も行われた]と記していました(『宮﨑市定全集24』p.319)。

宮﨑は[コッホ博士のコレラ菌論争の場合のように、論争それ自体からは何も生まれませんでした。其後の実験と治療の積み重ねが最終的に黒白を決定したのです](p.319)と例を出しています。ここで大切だったのは、「実験と治療の積み重ね」でした。

パースが言う信念の確立法のうちの「科学の方法」という、実験を行ってその結果を確認する方法によって、「最終的に黒白を決定したのです」。パースのいう科学の方法がビジネスでは大きく取り入れられてきました。成果を検証して、適切性を判断したのです。

     

2 「考古学的方法」と「文献学的方法」

科学の方法はビジネスには適応する点が多くありましたが、万能ではありません。歴史に関して、こうした科学の方法はうまく機能しないことがあります。このときどういう方法によって適切性を判断したらよいのか、宮﨑市定の方法が参考になるかもしれません。

宮﨑は『宮﨑市定全集21』の自跋で[本巻の自跋は従来とは趣向を変えて、もっぱら私が抱いている日本古代史の学界に対する不平不満、苦情反論を吐き出す態度をとった]と記し、[多くの論文執筆者の不満を合わせて代弁する役をつとめ]ようとしたのです。

宮﨑は歴史において、「考古学的方法」と「文献学的方法」があると『謎の七支刀』で示しました(『宮﨑市定全集21』pp..45-47)。[摩滅した銘文を読もうと]して[一字一字の字形の復元に全力を注ぐ]としても限界がありますから、文献学的方法が必要です。

     

3 ビジネスでも使える「全体最適の方法」

宮﨑の言う「考古学的方法」は、パースの言う「科学的方法」に含まれる方法でしょう。一方「文献学的方法」は、[文章の中に用いられた文字は][周辺の他の文字から影響をうけてもちいられることをまぬがれない]点を利用して、分析を進める方法といえます。

[文字は単独に孤立して存在するものではなく、かならず他の文字と組み合わせれ、相互依存の関係においてはじめて文字としての効用を存分に発揮できるもの]です。[文字と文字との間には、最も親密な関係のある場合と、めったに共存しない場合があり]ます。

[すなわち銘文は単なる文字の無機的な集積ではなくして、ある構成を持った文章であるという点に着眼する]のです。「復元すべき対象は個々の文字ではなくして、その文章が構成している文章の復元である」ということになります(『全集21』pp..46-47)。

個々の関係を見て、全体を組み立て、その全体構造を検証するという方法です。個々の部分において適切であるものを前提にして、構築された全体が適切であるならば、正しさの検証になるでしょう。ビジネスでも使える「全体最適の方法」ともいうべき方法です。

      

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