■圧倒的な成功をもたらしたもの:中野雄『小澤征爾 覇者の法則』から

      

1 お勧めしたい勉強法

小澤征爾という存在がいなくなって、がっくりすることが何度かありました。特別なファンというわけではありませんから、意外なことです。日本人の音楽家で、圧倒的な存在だったことは間違いありません。後に続く人は簡単に出てこないのでしょう。

中野雄『小澤征爾 覇者の法則』のプロローグで、[日本出身の指揮者で、後輩たちから「坂の上の雲」と仰がれ、目指す目標たり得る人物は、小澤征爾を除いて一人もいない]と記しています。若手指揮者からの質問に対して、中野はこんな風に答えたそうです。

▼私のお勧めしたい勉強法の第一は、小澤征爾さんの歩んだ人生の軌跡を追うこと。そこから、普遍的な成功法則をご自分で見つけ出してごらんなさい。いま、この時点で、小澤さんなら何を考え、どう行動するかを追求し続けることが可能性実現の早道だと思います。 プロローグ p.8

    

2 抽象的な普遍原理の抽出

小澤征爾の次から次への成功は、中野の本に記されている通り、驚くばかりです。音楽家でなくても、圧倒されます。中野雄は丸山眞男門下の音楽プロデューサー、そしてオーディオメーカーの役員でした。この人自体がタダ者ではないと、かつて噂を聞きました。

この本でも、丸山眞男の言葉を紹介しています。[教育とは、単なる知識を伝受する行為ではない。具体的な事柄から抽象的な普遍的原理を抽出する能力を付与すること。更に、師のもとを離れても、生涯独力で学び続ける習慣を身に着けさせること](p.63)。

丸山自身が、専門の日本政治思想史、独自の政治理論、クラシック音楽の研究の[三分野とも、特定の先導者もなしに、すべて独学でわがものとした]とのこと。小澤の師である齋藤秀雄の[思想と行動がまさに丸山眞男の言葉そのもの]だと記します(p.63)。

      

3 特別な存在

小澤にとって師の齋藤秀雄は特別な存在であり、齋藤にとっても小澤は特別な存在でした。齋藤秀雄の父は英文学者の齋藤秀三郎です。伝説的な人物と言えます。[齋藤秀雄の考え方は親譲り、筋金入りだった](p.55)。斎藤の言葉が引用されます。

▼いま、ぼくが生徒を教えていて一番ためになるのは、おやじの文法的な頭脳ですね。一つのメロディーを聞きますと、これは前置詞で、これは形容詞で、これは名詞で、これは終止形であるとか、半終止形であるとかいうことがわかってしまうのです。そういう分析をする能力があるような気がするのです。 pp..55-56

齋藤はまだ教え足らないと言って、小澤を留年させてしまいます。小澤は特別でした。小澤の場合、[時間の密度が桁外れに高い](p.110)のです。小澤のすごみを、中野雄は一般人にもわかるように伝えます。打ちのめされるような言葉です。

▼出会った事柄を経験として、また教訓として脳内に蓄積し、それを次の瞬間に、あるいは一定の時を経たのちに、その人の“自己表現”に変質させて他人に提示できるか否かで人生の勝負は決する。 p.110

     

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